Ctredit: phelafel.technion.ac.il
水素原子は最も単純な分子として知られる。そのため量子化学計算の対象として格好の物質であり、これまで分子の波動関数の可視化も多いがこのほど国際共同研究グループが初めて電子相関を可視化することに成功した(Waitz et al., Nature Comm. 8: 2266, 2017)。
研究グループが開発した手法で直接的に運動量空間に波動関数の2乗(電子の存在確率)を投影できる。この研究手法は光電子イメージングとコインシデンス計測法を組み合わせたもので、前者で一方の電子を運動量空間に投影し後者でその結果(電子が取り去られた後)、どのような変化を残すかを計測する。
この手法によって水素分子の2電子系について電子相関の可視化が可能になった。ここで投影されるのは波動関数そのものではなくその2乗で与えられる電子の存在確率である。研究グループは今後、同じ手法でコインシデンス法の使えるサイズの2電子系より複雑な分子についての応用も可能だとしている。
この研究はハートリーフォック関数など電子相関を考慮しない波動関数を用いた計算では説明できない高温超伝導や巨大磁気抵抗など電子相関による物理現象の量子論的解釈の進展が期待されるなど基礎物理、化学、物質科学へのインパクトが大きい。またこの手法はXFELやレーザープラズマX線によるコヒレントイメージングの発展にも寄与すると期待されている。
Credit: Nature Comm.
上図aは光電子放出後の水素分子の1電子波動関数、黒い点は原子中心。b(kx,ky)運動量空間のフーリエ成分の2乗、cはその対数プロット、dはcの極座標プロット、緑色は高精度計算の結果。