炭素系ナノ物質は燃料電池の正極材料に最適

08.01.2018

Photo: intechopen

 

Liイオンバッテリーの正極材料研究開発で実績のあるライス大学の研究グループは燃料電池の酸素還元触媒である白金の代替えとしてグラファイトN(B)ドープのカーボンナノチューブあるいはグラフェンナノリボンなどの炭素系ナノ物質が最適であるとする研究結果を発表した(Zou et al., Nanoscale, 2017)。

 

研究ではシミュレーションによってヘビードープした炭素系ナノ物質が酸素還元の正極として最適であることが明らかにされた。またナノチューブの方がナノリボンよりも構造に固有のC-C結合角が酸素還元反応に適していることがわかった。ナノチューブではC-C結合が適度に曲げられることで、結合エネルギーが酸素との反応最適な半径7-10Åとなっている。

 

研究グループはグラフェンナノリボンへのN/Bコドーピングでジグザグ構造のナノリボンの端の酸素反応性が増大すること(エッジ効果)も見出した。酸素はまずBドープで電荷を持った炭素原子に引き寄せられて、次に電子過剰の炭素によって酸素還元反応が起きる。このため電極への酸素分子吸着親和性が(酸素への原子プロトンと電子の供給と並んで、)酸素還元反応の律速条件となる。

 

特にカーボンナノチューブでは中間体(励起状態)及び原子状酸素と酸素原子の吸着エネルギーは線形関係にある。グラフェンリボンとカーボンナノチューブを比べるとエッジ効果のために反応性増強される。NドープしたカーボンナノチューブあるいはB/Nコドープしたグラフェンリボンが最適な正極ナノ物質と考えられる。

 

Credit: Nanoscale

 

計算機シミュレーション(DFTなどの分子軌道法)は計算機コードと高性能プロセッサの普及によって、物質科学には欠かせない存在となった。シミュレーションによって試行錯誤的だった触媒研究は物質の選択と物性の最適化は飛躍的に容易になった。シミュレーションで物質系を絞り込めるので、触媒開発の時間と労力は大幅に節約できる。

 

 

ちなみにFCVも水素製造に電力を使えばEVと同じでCO2排出量ゼロではなくなるが、水素を太陽エネルギーで製造し燃料電池で電力にできれば、FCVとEVは真のゼロエミッションとなる。燃料電池の電極の研究は逆反応が水素製造でもある。燃料電池普及には水素製造・輸送が壁となるが、水素製造を太陽エネルギーで行うことで、真のCO2排出量ゼロの電力が使えるようになる。電気化学的な水素製造は精力的な研究が行われており、内燃機関の車や化石燃料の販売ができなくなる2030-2040年までには、水素製造法も変貌を遂げるだろう。

 

燃料電池や水素製造技術の研究開発の進展の速さを考慮しないと、EVとの正当な比較は意味がない。EVの優位性を安易に信じ込み、欧州を中心に加速するEV化の潮流に乗ろうとするだけでは視野が狭い。クリーンな発電あるいは水素製造・輸送までを含めなければならない。

 

 

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