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大気中のCO2濃度の増大は海水の酸性化をもたらし漁業に深刻な打撃を与えるが、一方では海水中の酸素濃度も地域によっては減少傾向が続いている。酸素濃度は海水に生息する生物にとって致命的な悪影響を持つ。過去50年にわたって海水の酸素濃度は減少傾向にあり、低酸素濃度領域が1950年当時比べて10倍に拡大した。
酸素濃度減少は海洋生物に直接的な影響を持つほか、大洋に依存する観光経済を巻き込む重大な海洋汚染である。カリフォルニア大学サンデイエゴ分校の研究チームは世界中の海洋の酸素濃度を調査し、明らかに鳴った人類史上もっとも深刻な環境汚染と言える海水中の酸素欠乏について警鐘を鳴らしている(Breitburg et al., Science 359, eaam7240, 2018)。
この研究は国連の政府間海洋学委員会の傘下で、専門研究者つくる作業グループGO2NE(Global Ocean Oxygen Network)の調査結果に基づいている。研究は大洋と沿岸地域に分けて、それぞれの酸素欠乏状況を明らかにするとともに、その原因と影響及び解決に向けた対策を提案している。
地球の酸素の約半分が海洋中に溶け込んでいるが、気候変動や海洋生物の食物連鎖の影響で酸素濃度が下がり海洋生物が枯渇した「死の海域」が増大している。
例えばチェサピーク湾からメキシコ湾にかけての広大な領域(下図)では酸素濃度が低いために海洋生物は生命を維持できない。そのため魚がこの地域を避けるため食物連鎖で大きな影響が出る。酸素濃度が低下すると海洋生物の発育が悪くなり繁殖できず病気で死滅する種が増えていくことが怖い。さらにCO2の300倍温室効果が大きいと言われる亜酸化窒素や毒物の硫化水素の増大につながる。
Credit: Science
酸素濃度の低下は海面温度の上昇と密接な関係にある。酸素濃度の低下はその海域の海洋生物の絶滅を早めるほか、珊瑚資源を減少させることで観光産業にも悪影響を及ぼす。対策として酸素不足海域から逃れる海洋生物保護する海域を設けることが考えられている。また酸素濃度の計測を継続して行うための酸素濃度計測網の維持が重要になる。
対策が有効に機能する例もある。チェサピーク湾の窒素系海水汚染は流れ込む工業汚染水の規制によって24%減少し、酸素ゼロ海域はほぼ消滅した。地球温暖化の仮説に綻びが拡大して懐疑的な見方が増えているが、環境汚染の深刻さは定量性の高い海水の酸性化や酸素濃度低下から容易に理解できる。
酸素濃度低下の警鐘が政治的な地球温暖化の取り組みのプロパガンダとならないために、海洋資源に関わる諸国がGO2NEに積極的に参加して、制度の高い海水の酸素濃度計測網を立ち上げることが必要であろう。