一時入国禁止大統領令を巡る報道の真偽 Part1

01.02.2017

Photo: mashable.com

 

 テロ懸念国の市民の一時入国を禁止する大統領令が1月27日に発令された。主要メディアは、「イスラム教徒を対象とした宗教的迫害」、「ファシズム政策」、「白人至上主義」、「憲法違反」と批判、空港などでの反トランプ、イスラム教支持の抗議デモで混乱が起きた。しかし、大統領令の本質を主要メディアが報道していないことが問題である。

 

 

イスラム教徒の入国禁止ではない

 大統領令には「イスラム」や「ムスリム」の言葉は一切使われていない。入国が禁止されているのは、イラン、イラク、リビア、ソマリア、スーダン、シリア(無期)、イエメンの特定7カ国の市民が対象で、市民であれば、宗教は関係なく対象となる。テロへの対応、米国民をテロから守るための処置として90日間、移民の場合は120日間の入国禁止であり、永久なものではない。大統領令に提示しているのは、シリア移民に対しては「移民申請が国益に従って行われていることが保証されるまで(米国移民認定プログラムが適切に機能しているか確認されるまで)継続されることになる。

 

 これらの7カ国は、世界のイスラム教徒全体の12.2%にすぎない。後の87.8%のイスラム教徒は米国に自由に入国することはできるので、米国がイスラム教徒を宗教的な理由で迫害しているとの指摘は間違いである。

 

 

世界のイスラム人口に占める割合(出典:Wiki pedia)

イラン  4.6%

イラク  1.9%

シリア  1.3%

スーダン 1.9%

リビア  0.4%

イエメン 1.5%

ソマリア 0.6%

東南アジア、中央アジア、南アジア    50%

他の中東、アフリカ           22.9%

 

 

 国土安全保障省は今後30日間、米国ビザの申請に適切な情報が提出されているかを検討、ビザ申請プロセスに不正があれば入国禁止の対象国も増える可能性はある。

 

 入国には、外交ビザ、NATOビザ、国連や国際機関発行ビザを持つ代表と家族、国益に重要な人物などは適用外で、自国で厳しい宗教的迫害を受けている市民はビザ申請が優先されるなどの条件が含まれている。

 

 

過去にも入国禁止の大統領令

 そもそも、特定7カ国はトランプ大統領が特定したものではない。2015年にオバマ前政権下で成立した、ビザ免除プログラム及びテロリスト渡航防止法(法案番号H.R.158)でイラク、イラン、スーダン、シリアがテロ懸念国として指定され、これらの国からの市民の入国が一時禁止された。2016年には、リビア、ソマリアとイエメンが追加対象国となった。これらの国は、テロリストを育成、支援、他の国に送り込んでいる歴史があることして特定されたのである。

 

 入国禁止の大統領令を発令した例は過去にもある。オバマ前大統領は2011年に、大統領令でイラクからの難民に対するビザの発給を6ヶ月間禁止した。1979年には、ジミー・カーター大統領はイランアメリカ大使館人質事件をもって、大統領令でイランからの市民の入国禁止を発令、当時米国滞在のイラン学生5万人を含むイラン移民の送還を求めた。

 

 イランからの移民はイランイスラム最高指導者アヤトッラー・ハーメネイの敵であることを証明できない限り入国は禁止された。1975年には、南ベトナム崩壊で、当時のフォード大統領は避難したベトナム移民をアメリカに受け入れたが、民主党が反対し、民主党中心のカリフォルニア州はベトナム移民の受け入れを拒否した例もある。