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移民や難民を受け入れることでドイツ経済が活性化するとメルケル政権は、移民政策の正当性を主唱してきた。特に、シリアからは医師、建築家、教師、技術者、専門職のなど高等教育を受けた難民が多く、高齢化が進むドイツ社会にとって、将来労働市場において重要な労働力となると経済界も移民政策を支持してきた。だが、多くの移民や難民は教育レベルが低く、専門知識や技術がないことに加え、ドイツ語を学び、ドイツ社会に溶け込むことを望まない。移民の雇用は低く、移民政策はドイツの財政に大きな負担になりつつある。
ドイツは2015年には890,000人、2016年には280,000人の移民を受け入れた。シリアからの移民は全体の32%で最も多く、イラク、アフガニスタン、イランからの移民を含むと全体の半数を占める。
では、果たして2015からの2年間に受け入れた1,170万人の移民は、メルケル政権や経済界が期待したような労働力、経済効果があったのか?
移民の雇用状況の実態
移民の雇用状況を検証する2つの調査がある。独Frankfurter Allgemeiner Zeitungによる調査では、2016年にドイツDAX(フランクフルト証券取引所)の主要30社による移民の雇用は、雇用条件を満たさない理由で54人に留まった。計54人のうち50人はドイツ郵便局、2人はヨーロッパ最大ソフトウェア会社のSAP、残り2人は大手製薬会社Merkで雇用された。
独「キール学派」のキール世界経済研究所の調査では、2015年にドイツが受け入れた移民のうち、雇用できる移民は全体の2%に過ぎないという結論をだした。ドイツ企業が移民を雇用できないのは、スキルがない、ドイツ語を話せないといった言語の障害に留まらず、より深刻な問題があるからである。移民の多くは文字の読み書きができないことである。ミュンヘン大学が行った調査では、移民全体の3分の2は読み書きができないとの調査結果を出している。
時給1ユーロの雇用プログラム
移民の増加に伴って、職のない、「活用できない」移民の増加で移民政策への批判を受けたメルケル政権は、政府主導の最低時給より低い「時給1ユーロ」の雇用プログラムを導入した。このプログラムでは、移民はスキルを必要としない仕事を時給1ユーロで、政府関連施設(主に移民支援センター)などで雇用される。プログラムを活用する州は、増えているとはいえ、移民全体の5%未満である。
深刻化する移民負担
2016年のドイツ政府の移民政策の負担額は、移民増加の対応費用(生活支援)として州や自治体へ93億ユーロを含むと210億ユーロと予想される。2020年までには、その負担額は300億ユーロまで増加すると予測されている。移民政策の負担以外にも、移民による犯罪の増加に伴う治安維持費用が少なくとも年間13億ユーロ増加していくと予想され、国家治安維持経費は2017年には83億ユーロまで膨れ上がる傾向にある。