追い詰められたイタリア大手銀行の不良債権処理

22.11.2016

Photo: nymag.com

 

  イタリアが2007年にEU加盟国となってから、GDPは10%縮小、EU圏ではギリシャに続き、政府債務残高対GDP比は最も高い135%と上昇を続けてきた。現在、イタリアは経済、債務、銀行危機に加えて、政治不安の拡大が同時進行している。

 

 

止まらないイタリア大手銀行株下落

トランプ大統領誕生で米国銀行株は、金融危機後に導入された銀行への規制が緩和されると見込んで上昇した。世界主要国でも銀行株が急伸したが、イタリアでは米大統領選挙後の一週間で、イタリア最大の銀行ウニクレーデット・イタリアーノは15%下落、2位のインテーザ・サンパオロは10%、バンコ・ポプラルとUBIバンカもそれぞれ15%下げ、イタリアの銀行株の下落は止まらない。

 

 2016年に株価下落率が60%を上回った銀行は、ウニクレーデット61%、UBIバンカ65%、バンコ・ポプラル80%、モンテ・パスキ・デイ・シエナ(モンテ・パスキ)85%である。株価だけでなく、イタリアの各銀行の5年CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)も上昇して、破綻危機が深刻化していることを警告している。

 

 イタリアの銀行の不良債権処理を行うために設立した救済基金の「アトランテ」と「アトランテII」は資金不足状態で、銀行の救済は期待できない。他の銀行との合併や不良債権処理、経営立て直しのための資金調達も難しい状況にある。

 

 

モンテ・パスキの再建計画

 モンテ・パスキは, 2016年末までに50億ユーロの資本増強の計画を発表している。モンテ・パスキの劣後債42億9000万ユーロ(約5000億円)相当の保有者と「フレッシュ2008」と呼ばれるハイブリット債券の保有者が対象となり、債務の株式との自発的交換が求められることになる。イタリアの銀行の劣後債保有者には個人投資家が多く含まれている。そのためか、個人の劣後債保有者の転換比率は100%で、機関投資家は85%となる見通しである。

 

 この再建計画は11月24日の株主総会で承認を得れば、28日から債務交換が開始されるとしている。しかし、株主が先取特権を無くすような、既発株の希薄化を招く債務交換を承認するかは確実ではない。

 

 また、劣後債保有者が債務交換を拒否することも十分予想される。モンテ・パスキの株価は下げ続けており、上昇が見込めない状況のなかで、劣後債を保有していた方が安全と考えてもおかしくないからである。債務株式化の計画が失敗すれば、欧州のベイルインが執行されることになる。

 

 

憲法改正を問う国民投票 

 イタリアでは12月4日には、憲法改正を問う国民投票が実施される。憲法改正否定が優勢で、レンツィ首相が結果次第では辞任することを示唆している。政治混乱が起きれば、モンテ・パスキの資本増加計画は失敗に終わる可能性は高くなる。