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2015年11月14日にシリアとの国境付近でトルコ領空を侵犯したとしてロシア空軍のSu-24戦闘爆撃機がトルコ空軍に撃墜された。NATOの加盟国であるトルコが独自にロシア機を撃墜したことで、EUは衝撃を受けシリアのクルド人部隊(ペシュメルガ)を支援に踏み切った。
EUのNATO予算負担増を求めるトランプ次期大統領はEU議会に波紋を投げかけている。一方ではロシアやテロの脅威が増大し、NATOとは別に自衛のためのEU独自の軍隊(EU Army)を持つ意識が高まっている。
EUは2016年11月30日、(将来のEU軍創設を目指し)「EU防衛資金」を設立した。EU参加国がドローンやロボット兵器などの先端軍事開発を共同で行うことで負担を軽減するのが狙いである。
この発表はNATOとは別に、EU参加国が歩調を合わせて軍事行動を行う部隊の設立を決めた14-15日のEU外務大臣会議を受けてのもので、米国、トルコの関係を断ち切ってEU独自の軍隊を持つ布石と考えられる。
しかし現時点でEUがNATOから離脱を考えているわけではなく、NATOないでEUの防衛能力を強化するためとされる。スエーデンやフランスのように自国技術で開発する国では開発予算が負担となっている。タイフーン戦闘機を共同で開発した時のように、参加国が拠出した防衛予算で開発費の一元化できれば一国の負担が少なくなる利点がある。
ロシアの脅威、欧州テロ、トランプ次期大統領の圧力などの防衛能力増強の緊急性に加えて、財政難で軍事開発費の負担を減らす必要性のためEU軍への動きが活性化している。下に示すように冷戦後に米国、ロシアとも大幅な核軍縮を行なったものの核兵器能力においてロシアの優位性は変化がない。地上兵力もロシアが圧倒的に優勢である。
EUは米国のNATO兵力の減少を補うためには相当な軍備増強が必要になるだろう。一方では先端兵器の開発費を一元化して、EU内で調達することは経済的にメリットが大きい(注1)。
(注1)ステルス戦闘機は米国から始まったが、ロシア、中国も独自に開発した機材を実戦配備しつつある。またインド、日本、韓国、スエーデンなどの国がこれに続いて独自開発を行っている。先端兵器の独自開発はその国のハイテク産業を頂点に幅広い裾野産業を育成できる。日本のように防衛予算がGDP1%に決められている国は珍しく米国、ロシア、欧州の軍事費の対GDP比は減少傾向にあり、パートナーと共同での開発費圧縮と自国内での開発・調達は共通のトレンドとなっている。