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難民政策を転換する欧州
難民を収容する物理的スペースがなくなったスエーデンはこれまでの寛容な受け入れが「物理的に」困難となった。難民収容能力が限界に達しただけではない。独自の法律を国外でも掲げ、受け入れ国の法律無視、犯罪率の増加、特に性犯罪の増加や、暴徒化で社会不安が増大した。
人口1千万のスエーデンは国家予算の4%が対策に計上されこれまでに10万人以上の難民を受け入れたが、2017年も15万人が殺到するとみられる。収容能力と社会環境の悪化で、スエーデンも、移民政策の転換を余儀なくされ2016年6月に移民の永住権保障を制限した。
欧州を目指す難民の第二波
欧州へ新天地を求めて移動する難民たちの経路はふたつある。中東からギリシャを経て陸地を北上する中東難民の経路とリビアから地中海を渡りイタリアを経由するアフリカからの難民の経路である。経済的困窮を理由に命がけで地中海に乗り出すアフリカ難民は2016年だけで18万人に達するが、4,500名は海の藻屑と消えた。たとえ欧州に渡れたとしても、移民として受け入れられないのが現実である。
酷寒の真冬でも無謀な公開で命を落とす難民は数百名になる。春を迎えて増大が予想されるアフリカからの難民を「第二の難民の波」として欧州当局は警戒を強めている。EU28カ国は多額(10億ユーロ規模)の資金援助と引き換えに、トルコが欧州に流れ込む移民の数を制限することになった。EUは同様の制限をアフリカからの難民にも適用したい考えだが、トルコの難民管理が効果を上げられるかが問題となる。
EU当局が手を焼くのはイタリア経由のアフリカ難民が就業目当てで渡航する、難民に当たらないケースが多いためで、ナイジェリア、ニジェール、エチオピア、モーリタニア、マリ、チャドを警戒する。アフリカ難民の流れを止めるにはエジプト、リビアから出航する密入国船を制限することが効果的であるため、当局はリビアとの交渉も始めている。
無政府状態に近いリビアは密航者を取り締まれる行政ができない一方、最近ではリビアを上回る密航拠点のエジプトはEUと協力してこの問題に対処できるとの観測もあるが、ムバラク政権後に急速に悪化した財政でできる対策は限定される。
国境問題で結束が揺らぐEU
3月7日のEU議会はEUが結束して国境保安に取り組みこと、難民申請システムの改善、EU内への移民の定着支援に取り組むことを決めた。しかしEUはトルコとの難民協定の見直しに関してトルコの合意を求めていく方針だが、移民政策に関してEUは意思統一できていない。
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このためEU加盟28カ国が結束して今後、移民受け入れ容認を継続する可能性は低く政権基盤に影響が出ている。フランス大統領選挙の有力候補の国民戦線党首マリーヌ・ル・ペン氏は、反EU、反グローバリズムを掲げ、支持率は急増している。「EUの恐れる難民の第二波」はEUの基盤である「欧州統一の理念」に暗い影を落としEU分裂の脅威となりつつある。