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スペイン財務相、副首相、国際通貨基金(IMF)の専務理事を経て、大手金融機関バンキアの代表を務めたロドリゴ・ラト氏はスペイン裁判所(2月23日)で、横領の罪で禁固4年6月、その他に64人の元銀行幹部や取締役も同罪で実刑判決を受けた。銀行幹部による金融犯罪が裁判事件となるのは珍しくないが、65人が一度に有罪判決を受けるのは、2015年にアイスランドで26人が実刑判決を受けた以来のことである。
銀行幹部に実刑判決を下したスペイン
今回の裁判は2012年にスペインが金融・経済危機に直面していた最中に発覚した金融犯罪に関してである。2003~2015年にラト氏はマドリード貯蓄金庫カハ・マドリードとバンキアの代表を務めた。2010年に貯蓄金庫制度の再編の一環としてカハ・マドリードはバンキアに統合され、ラト氏はスペイン第4位となったバンキアの代表となる。しかし、不動産関連の多額の不良債権を抱え込んでいたバンキアは、経営難に陥り、政府と EUからの救済が必要となる状況に追い込まれる。その結果、バンキアは2012年にスペイン史最高額の190億ユーロの緊急救済を受け、一部国有化される。
裁判事件となったのが、ラト氏とその他の64人の元銀行幹部が2003~2012年の間、銀行の資金約1200万ユーロ(約14億円)を横領したことである。リーマンショック以来、スペイン経済は悪化、銀行の経営破綻を阻止するための公的資金による救済を受けながら、「一部のエリートが個人目的」で銀行の資金を横領したとして国民からの批判があがった。64人の幹部と共にラト氏は、銀行名義のカードを使い、食飲料品の買い物、車のガソリン、遊興費、贅沢品の買い物、ナイトクラブでのパーティーなどの私的な支払いに使ったとされる。
起訴された3人目のIMFの専務理事
IMF専務理事が刑事事件で起訴されるのは、ラト氏で3人となる。後任者のドミニク・ストロス-カーン氏は2015年に性的暴行容疑で起訴、辞任に追い込まれる。その後、被害者の狂言の疑が強いため起訴は取り下げられ、反ドミニク・ストロス-カーン派による政治的工作との見方が優勢となった。後任者となり、現職のクリスティーヌ・ラガルド専務理事は、2016年12月にフランス裁判所で経済財政相時代の職務怠慢で有罪判決を受けたが実刑刑罰は課せられなかった。
これまで「大きすぎて潰せな」、「大きすぎて起訴できない」と呼ばれてきた金融機関による金融犯罪に対して、有罪判決がでても刑事責任は取らず、制裁金や罰金で済まされてきた。今後、アイスランドやスペインのように、銀行の汚職や腐敗、市場操作などで銀行幹部に実刑判決を求める国民の声が高まるかが注目される。