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ドイツは、欧州連合(EU)参加国が財政赤字を対国内総生産(GDP)の3%以内まで削減するEUの財政枠組みに従うよう求めてきた。しかし、景気減速や国民の反対で、財政緊縮策の実施は難しく、EUのなかでの分裂は深刻化している。
EUの分裂はもはやあり得なくない
ドイツ社会民主党(SPD)党首で、メルケル内閣の副首相兼エネルギー相であるシグマール・ガブリエル氏は7日にDer Spiegel誌のインタビューで、メルケル内閣の1人では初めてEU崩壊の可能性を「もはやあり得なくない」と述べた。
メルケル首相が加盟国に財政緊縮を実施するように圧力を高めるたびに、EUのなかの亀裂は増していき、最終的にはEUの崩壊を招くとガブリエル氏(注1)は警告を発した。この発言には、イタリアやフランスでの財政緊縮策に反対する国民の極右や保守党の支持拡大がある。既存の政治体制に不満を持つ国民による政権交代、EU離脱の要求の高まりはEU28加盟国間で広がりをみせている。
「私はかつてメルケル首相に、ドイツにとってより不利になるのは、フランスの財政赤字が0.5%増加することか、マリーヌ・ル・ペン氏がフランス大統領に選ばれるかを質問したことがある。未だに答えをいただいていない。」この発言は、メルケル内閣内で、EU崩壊を阻止するために、ドイツは今後柔軟な姿勢を持つべきとする見解があることを示している。
(注1)ガブリエル氏は、9月に行われるドイツ連邦議会選挙でメルケル首相の対立候補として選ばれる予定である。
欧州選挙の年となる2017年
2017年は欧州の今後の方向性を決める主要加盟国の総選挙の年である。
3月 オランダ総選挙
極右の自由党(PVV)の支持率が上昇中、党首のウィルダース氏が当選すれば、EU離脱を問う国民投票が実施される。
4月 フランス大統領選挙
極右の国民戦線のマリーヌ・ル・ペンは反EUの立場、特に移民問題や財政緊縮の反対姿勢で支持率上昇中である。
9月 ドイツ連邦議会選挙
メルケル首相の支持率は過去5年間で最低、メルケル首相が率いる保守系与党連合のキリスト教民主同盟(CDU)とキリスト社会同盟(CSU)の支持率は特に移民政策で低下傾向にある。移民に反対のドイツのための選択肢 (AfD)の支持率は上昇傾向にある。現在2割の支持率ではあるが、現連立与党の支持率を上回る勢いをみせている。
イタリアの混乱
イタリアの総選挙は2018年まで予定されていないが、2016年12月4日の改憲を問う国民投票で過半数が改憲反対に投票したことを受けて、レンツイ首相は辞任を表明した。2018年(早ければ2月)の総選挙まで暫定首相が務めるが、暫定政権は「5つ星運動」で勢力を強めた野党の影響力が拮抗するため不安定な政権となる。反EUを掲げる「5つ星運動」の発言力が増え、暫定政権は高まるEUへの反撥を止められない状況にある。
加速するEU崩壊への動き
慢性的な財政難をさらに圧迫するメルケル政権の難民政策と欧州に拡散したテロによってドイツへの不満が高まった。ドイツの移民政策と財政政策の両面で加盟国の反撥が大きくなり、EU崩壊の回避が難しくなってきている。欧州委員会(EC)は公的資金による銀行救済には反対でEU規定に沿ってベイルイン制度の導入を求めているが、ベイルイン制度での銀行救済には加盟国の国民は強く反対している。オランダ、フランス、ドイツの選挙が行われる2017年は、これらの国の政権交代の可能性があり、その結果次第ではEUの結束力は弱体化し実質的なEU崩壊につながる。