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トランプ大統領は4日に選挙前にオバマ前大統領によって電話を盗聴されたと主張、非難した。直ちにオバマ前大統領側は「完全に虚偽」と応戦、主要メディアも発言には証拠がないと批判し、トランプ大統領への捜査、辞任や弾劾などを求める声もあがった。だが、オバマ政権は外国情報監視裁判所(FISA)に盗聴活動を認める令状を2度に渡り要求している事実がある。
トランプ大統領への盗聴
2016年6月にオバマ政権は、外国情報監視裁判所(FISA)にトランプ氏と複数の補佐官の盗聴活動を認める令状を要求したが、その要望は却下された。
2016年10月にウィキリークスは、ヒラリー・クリントン氏の選挙対策本部長のジョン・ポデスタ氏の一連のメールを公表した。クリントン氏のメール問題に加えて、このポデスタメール公表で再びクリントン氏への疑惑が高まった。トランプ氏は、ロシアに米国の高濃縮ウラン20%を譲渡したなど、クリントン氏とロシアとの関係を非難した。この時期からクリントン陣営と主要メディアは、トランプ氏とロシアがクリントン選挙活動の妨害として、DNCとポデスタのメールをハッキングしたと批判を始めたことをきっかけとしてロシアの米国大統領選挙への関与説が浮上する。
オバマ政権は10月に再び、司法省と FBIにFISA令状(注1)を要請する。トランプ氏とロシアの銀行(SVB銀行とAlfa銀行)との関わり(金融犯罪)の疑いで、トランプ・タワーにあるサーバーに限定した盗聴を求めた。注目する点は、FISA令状を要求する際に、「トランプ」個人が盗聴対象ではなく、「ロシアの銀行とトランプ選挙対策本部との関係を結ぶ疑いのあるサーバー」の盗聴令状の要求であったことである。令状は発令されたが、トランプ氏と複数の側近が盗聴の対象となった。盗聴の結果、トランプ氏とロシアの銀行との犯罪はなかったと結論された。結果的にトランプ氏への犯罪捜査を実施する根拠は最初からない状況で盗聴を行ったことになる。
(注1)FISA令状は通常、外国勢力(特に敵対関係にある国)と関わり(スパイ活動、テロ活動、国家反逆活動など)がある人物(主にアメリカに永住権を持つ外国人や滞在中の外国人)を対象に、盗聴を含む諜報活動を行う権限である。
しかし、司法省とFBIは国家安全保障を理由に盗聴を続ける。オバマ政権が支持するクリントン候補の対立候補であるトランプ氏への盗聴を大統領選挙中と大統領就任式前の期間中にとどまらず、大統領に就任した後も継続していたと思われる。
NSA情報の共有
1月12日のニューヨーク・タイムズ紙によると、オバマ前大統領は任期終了前に米国家安全保障局(NSA)が収集した個人情報を米国の情報機関共同体の16諜報機関と共有できる権限を強化した。それまでNSAは国外の衛星通信、電話通信、電子メールなどを通じて取得した情報の扱いと利用に制限があり、他の諜報機関と共有する場合は個人情報法に反しないように情報のフィルタリングが行われていた。しかし、権限の強化で、他の諜報機関は情報のフィルタリング前の生の情報を入手可能となった。つまり、情報を入手するための司法の令状が不必要となり、個人情報の保護が侵害され、悪用されるリスクが高くなることが懸念される。
だが、諜報機関がロシアとの関係(トランプが当選できるように、大統領選挙に関与した)の疑いで、トランプ陣営を(盗聴を含めた)捜査していることを2016年11月から主要メディアは報道している。2017年1月19日付のニューヨーク・タイムズ紙では、複数の諜報機関が複数のトランプ陣営領側近の盗聴を元に捜査を行っていることを報道している。トランプ氏が対象であったかは確認できていないとしながら、トランプ・タワーの通信サーバーが盗聴(注2)されていたことは確かな情報として報道された。さらに、ワシントンポスト紙、マクラッチー紙も盗聴があったことを報道している。トランプタワーのサーバーはトランプ氏自身も使っているため、当然トランプ氏の通信内容の情報も入手できていることになる。
(注2)米国では2001年から一般家庭のデジタル回線(DSL)への移行が急速に進んた。一方オフイスでは音声を符号化して圧縮したパケットをIPで伝送するIP電話やビル内の各部署の内線PHS回線、WiFiルーターなどがビル内で一括管理される。現代の盗聴はデジタル機器の中心となるサーバーとネットワークへのソフトウエアハッキングである。前者はハッカーが侵入した形跡が残るが、ネットワークの通信を傍受するネットワーク盗聴では、形跡が残らない。これには膨大なデータ処理ソフトが要求されるが、処理能力の向上とスパイソフトの進歩で可能になった。