禁断の書『我が闘争』が愛読される理由

13.12.2016

Photo: NBCnews

 

 イタリア教育省は、読書を推進目的で小学生・中学生を対象に読書調査を行った結果、ナチスドイツの独裁者、アドルフ・ヒトラーの著書『我が闘争』が、イタリアの8都市で人気ベスト10に選ばれたことが、大きな反響を呼んでいる。

 

読者調査

 対象:小学生、中学生の計350万人

    イタリア各地の合計138,000クラス

 方法:アンケート形式で2016年6月1日~12月1日の期間

    

 ちなみに小学生対象の調査では、読書制限はなく、好きな本のトップ3に選ばれたのは、『星の王子様』(アントワーヌ・ド・サン-テグジュペリ)、『ピノッキオの冒険』(カルロ・コッローディ)と『チャーリーとチョコレート工場』(ロアルド・ダール)であった。

 

 

 中学生対象の調査は、2000年以降に出版された10,000タイトルのイタリア作家の作品のなかから、好きな本を選ぶ方法のアンケート式で行われた。その結果、Bianca come il latte, rossa come il sangue(『ミルクのように白く、血のように赤い』、ラブコメディー)、Io Non Ho Paura(『私は怖くない』、犯罪ミステリー、サスペンス)とGomorra(ノンフィクション)がトップ3に挙げられた。

 

 しかし、イタリアの8都市(パレルモ、カタンザーロ、ポテンザ、チボリ、ラツィオ州のガエータ、トリエステ、ウーディネ、ピアチェンツァ)の中学生の間では、悪名高い『我が闘争』がベスト10に選ばれた。想定外の結果に、教育省は本が選ばれた背景を調査することになった。

 

 

ドイツでは70年ぶりの出版

 『我が闘争』は、第二次世界大戦後に出版が禁止され、その後バイエルン州政府に著作権が渡り、権利が切れるまで再出版の許可をしてこなかった。今年の1月に、バイエルン州が持っていた著作権の権利が切れ、70年ぶりに注釈と解説を付け加えて再出版された。新版の人気は高く、直ちに売れ切れ状態となったが、出版を巡り賛否両論の激しい議論を引き起こした。

 

 ドイツでは、『我が闘争』はナチスの思想の基盤となる反ユダヤ、人種差別主義であること、ネオナチなど極右勢力に利用されること、ホロコストの歴史を知らない若物に悪影響を与えることなどを避けるために、これまで再出版されてこなかった。再出版のきっかけとなったのが、インターネットで自由にアクセスできるようになったことで、注釈と解説を付け加えた新版を出版する必要性からである。

 

 イタリアでは、ベルヴィオ・ベルルスコーニ元首相が所有するIl Giornale紙が6月に『我が闘争』のコピーを無料に読者に配布したことが大きな反響を呼んだ。

 

 

 一般市民には禁断の書とされた『我が闘争』が、欧州だけでなく、世界中で感心と人気を集めている理由は何か。民主政治が腐敗した事に不信感を募らせる国民が各国で増えている。独裁者の自伝であり教示であるこの本には雇用問題、広がる格差、官僚の腐敗に不満を持つ国民がポピュラリズムに走る傾向と無関係ではない。この書が好んで読まれる現象は急速に高まる欧州の閉塞感を象徴している。

 

 追記

2017年に入ってドイツ国内での人気は高まる一方でベストセラーとなっている。またamazonのドイツ書籍部門でも第1位となっている。1250人の評価は平均で⭐️⭐️⭐️⭐️であるが、53%が⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️をつけている。