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オハイオ州コロンバスにあるコロンバス州立大学での車と刃物によるテロ事件(11月28日)の容疑者は、イスラム過激派思想を持つソマリア出身の難民であった。2015年から増大している米国内のテロ事件には、容疑者がイスラム過激派思想を持ち、容疑者や容疑者の家族が中東やアフリカのイスラム教諸国からの難民であることなどの特徴が共通している。
コロンバスでのテロ事件容疑者はパキスタンに数年在住した後、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の第三国定住プログラムで米国に難民として定住してきたソマリア人である。今年に起きたテロ事件のうち、5件中4件の容疑者は難民として米国に定住(1件は両親がアフガニスタン難民)、5件のうち3件はイスラム過激組織が使用するマチェテ(注1)などの刃物を使ってテロ事件を起こしている。
(注1)中南米の現地人がブッシュを刈り取りながら進むために使う山刀。密林行動のための軍事用、キャンプ用などもある。
2015年以降に米国で起きたテロ事件
2015年
7月16日 テネシー州、チャタヌーガ、チャタヌーガ乱射事件
5人が死亡
11月5日 カリフォルニア州、マーセド、カリフォルニア大学マーセド校刃物
事件、4人が負傷
12月2日 カリフォルニア州、サンバーナーディノ、サンバーナーディノ銃乱
射事件、14人が死亡、17人が負傷
2016年
2月12日 オハイオ州コロンバス、ナザレス地中海レストラン刃物(マチェテ)
事件、4人が負傷 (ソマリア難民)
6月12日 フロリダ州オーランド、ゲイナイトクラブ銃乱射事件
49人が死亡、53人が負傷 (両親がアフガニスタン難民)
9月17日 ミネソタ州、セント・クラウド・ショッピングモール刃物(軍ナイ
フ)事件、10人が負傷 (ソマリア難民)
9月17日 ニューヨーク州マンハッタン、チェルシー・マンハッタン爆弾事件
29人が負傷 (アフガニスタン難民)
11月28日 オハイオ州コロンバス、オハイオ州大学テロ事件(車と刃物)
11人が負傷 (ソマリア難民)
増加するソマリア難民
シリア難民については、これまで多くの報道があるが、欧米ではソマリアからの難民も多く受け入れている。国務省の難民申請センターによると、2001年から米国は、99,726人のソマリアからの難民を受け入れてきた。2016年度(2015年10月1日~2016年9月30日)には9,020人が、10月には1,352人が定住している。
政府が指定した38州の定住先、そのうち多くはミネソタ、オハイオ、ニューヨーク、アリゾナ、テキサスなどの州で、各州にはソマリア難民が中心となるコミュニティがある。ソマリアの人口と同様に約99.6%の難民は、イスラム教スンニ派である。
ソマリアは20年以上続いた内戦で無政府状態であった。2012年から発足した暫定連邦政府はその後交代、現在でもイスラム過激勢力のアル・シャバブ(注2)との内戦が続いている。FBIによると、米国に定住したイスラム過激思想を持つ難民が、米国のソマリア難民地区でイスラム過激思想の教えやリクルート活動を行っているとしている。2015年には、ソマリア出身のアメリカ人9人がISISとの関わりで逮捕されている。
(注2)ソマリア南部を中心に活動する最大のイスラム勢力でソマリア暫定連邦政府とそれを支援するアメリカと対立関係にある。2010年にアル・カイーダとの連携を表明して以来、活動が過激になり、米国をはじめ西欧諸国のテロ集団として指定されている。
UNHCRのダダーブ難民キャンプ
ソマリアとの国境近くにあるケニア、ダダーブに世界最大の難民キャンプ(283,558人)がある。ソマリアの内戦で多くのソマリア人が難民として受け入れられてきた。ここから、難民として第三国定住プログラムで米国に定住する。下の写真はダダーブ難民キャンプ。
Sourece: africaffairs
ダダーブ難民キャンプは、アル・シャバブが運営に関わっているとされ、「テロの温床」としてケニア政府はこれまで数回に渡り閉鎖を実施しようとしたが、オバマ政権の圧力により阻止された。
2017年には5,500人のソマリア難民の受け入れがすでに決まっている。中東からではなく、アフリカのソマリア難民によるテロが米国に広がる傾向は今後も続く可能性が高い。「米国に渡りテロを起こせ」というイスラム過激派の呼びかけに沿って進んでいる。