Credit:Artem R. Oganov
最もありそうにない化合物は閉殻構造を持つヘリウム、ネオンといった希ガスである。結合に使える電子がないこれらの原子は化合物を作らない、少なくともこれまでの教科書にはそう書かれていたはずだ。事実、熱力学的に安定な化合物は知られていなかったが、それは通常の環境のもとでの話となった。世界初の高圧下で安定な化合物が発見されたからである。
中国の研究者を中心とした国際研究チームによってヘリウムが113GPa以上で蛍石型構造を持つ絶縁体結晶Na2Heをつくることが明らかにされた(Nature Chemistry, Feb. 06 2017)。研究チームは計算により仮想的な高圧力下でNaとHe原子の反応とNa-He化合物の安定性を調べて200GPa以上でNa2He相が安定化することを見出し実験に臨んだ。
実際にダイアモンドで挟んで押し付けて高圧を発生することができるダイアモンドアンヴイルセル(DAC)という高圧発生装置で、113GPa以上で新しい相がみつかり、120GPaでのHe融点である1,500Kのレーザー加熱でNa2He相がさらに成長することもわかった。
Na2Heの結晶構造は下図aに示す蛍石型で、ピンクと灰色の球がNaとHe原子に対応する。bの多角形表示では灰色のNa原子のつくる立方体の1/2がHe原子で置換され、1/2は電子ペアが占めている。cの電子密度マップではHe原子とNa原子の格子間に電子突対が局在する様子がはっきり示されている。
Credit: Nature Chemistry
実験で得られたX線回折データの結晶構造は計算による結果と良く一致した。一般に結合を作るには電子対を必要とする。しかしヘリウムのイオン化エネルギーは全元素中で最も高く、酸素やフッ素と反応するには800GPaの極端高圧条件が必要であった。なぜ113GPaという比較的低い圧力でNa2Heが安定化したのだろうか。
答えは格子間に存在する電子対にあった。この電子ペアは「電子対」をつくらないでスピン偏極した局在状態をつくり、局所的な電子密度が増大することによってバンドギャップが開き絶縁体として安定化すると考えられている。簡単にするとスピンペアがHe副格子に挿入され、Heイオンと擬似的な結晶をつくるとみなせる。
研究チームは計算により15GPa以上でNa2HeOという酸素化合物の存在も示唆している。ダイアモンドアンヴイルセルの最高発生圧力は338GPaであったが、別のグループが496GPaで金属水素を発見している。小型でレーザー加熱で高温高圧を作り出せるダイアモンドアンヴイルセル技術の発達で、極限環境で続々新しい化合物が発見されている。
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