Credit: Alstom/Michael Wittwer - Coradia iLint
ドイツが導入してミュンヘン近郊で運行される燃料電池列車は世界初の試みとして報道されている。実は世界初の燃料電池列車はJR東日本が2006年に、デイーゼル機関車に代わる「環境に優しい」近未来型列車として、開発・試験運転している。日本のお家芸、燃料電池技術は環境保護に厳しいドイツで実を結んだ。
ドイツの燃料電池列車(上の写真)は2018年から営業運転が予定されている。燃料電池列車(Coradia iLint)の開発はドイツの4州とフランスの1企業のパートナーシップによるもので、開発には欧州でもとりわけ新技術導入と環境保護に熱心なドイツが選ばれた。
燃料電池列車は2016年にベルリンで開かれた列車関連の見本市に出展され、開発が行われてきたがこのほど2018年の運行開始を目指してドイツ当局の審査を受ける段階に到達した。技術開発で10年先行していた日本と遅れて参入しながら運用開始が早かったドイツ。明暗を分けたのは何だったのか。
Coradia iLintはJR東日本同様(注1)、デイーゼル機関車を燃料電池動力に転換したもので、デイーゼル車と最高速度は140km/hと変わらないが低騒音でゼロエミッションとなる。欧州の列車は先頭のデイーゼル機関車による牽引方式が主流で、燃料電池列車の有望な市場となる。ドイツだけでも2,700両もあるデイーゼル機関車の多くは5-20年以内に更新される。
(注1)JR東日本と鉄道総研がデイーゼルエンジンによるハイブリッドシステムをNE(新エネルギー)トレインとして開発、後に燃料電池列車(下図)とした。正式名称はJR東日本クモヤE995-1。
Credit: JR東日本
日本は燃料電池関連の特許の6割を持ち技術開発で圧倒的な優位性を誇る。しかしドイツは福島第一原発事故を受けて段階的に脱原発に舵を切り、太陽光発電インセンテイブ政策など環境保護に州政府、連邦政府が企業と一体となって取り組む。そのドイツで日本発の先駆的な燃料電池列車テクノロジーが結実した。特許にあぐらをかく日本と企業と地方自治体が自由な「利益共同体」で取り組む積極性は対照的である。
燃料電池列車もFCV同様に水素チャージステーションを必要とするが、鉄道車両の基地あるいは主要駅で水素充填をすれば済むし、走行距離が決まっているため充填頻度もスケジュールが容易である。インフラ整備がFCVに比べて圧倒的に簡単な鉄道でデイーゼル機関を燃料電池駆動に置き換えることは簡単にできた。日本のデイーゼル機関車は貨物輸送と構内での使用に限定されその数は減少しつつあるため及び腰になったのだろうが、海外市場を含めれば勝機はあった。
Credit: TOYOTA
一方、燃料電池バスはトヨタが2017年に販売開始、東京で運用が開始される見込みである。燃料電池駆動の列車もバスもFCV同様に水素チャージステーションを必要とする。大規模な水素製造設備は限られており、ホンダの水素製造ステーションは小型ステーションの分散配置という斬新的なアイデアだが水素供給能力が限定される。
鉄道車両やバスなど公共交通機関は整備基地あるいは主要駅・停留所で水素充填をすれば済むし、走行距離が決まっているため充填頻度もスケジュールが容易である。インフラ整備がFCVに比べて圧倒的に有利なな鉄道で導入することは2006年時点でできたはずだ。日本のデイーゼル機関車は貨物輸送と構内での使用に限定されその数は減少しつつあるため及び腰になったと思われるが、海外市場を含めれば勝機はあった。
燃料電池バスでは世界に先駆けて本格的な運用を実現してほしい。
こんな記事も読まれています