Image: Boston Children’s Hospital
2016年10月28日、中国人医師チームによってCRISP―Cas9と呼ばれる遺伝子編集を受けた遺伝子が世界で初めて人間に注入された。ペンシルバニア大チームの遺伝子編集技術を開発したあと、米国と中国の研究者らの熾烈な競争が続いていたが、世界初となる人間での試験は中国の研究チームによるものであった(Nature News 15 Nov. 2016)。
中国チームは7月に倫理委員会の認可を受け、医師団は肺癌患者の血液から免疫細胞を抽出し、CRISP―Cas9(遺伝子編集手法)により遺伝子の特定場所を分子標的化させてDNA切断酵素により切断しある機能を停止させた。この機能は免疫機能を抑える蛋白質(PD1)によるもので、癌細胞はこの免疫機能を弱めることで増殖する。
Source: Science News
一般的に遺伝子操作のためには場所を特定する分子標的が必要になる(下図)。DNA切断酵素で変更したい遺伝子配列を切断し、変更したい配列の分子(Guide Molecule)で置き換えることで切断、配列の書き換えや挿入といった操作が可能となる。
編集を受けた免疫細胞は培養され増殖させてから3-4回の注射で患者の体内に戻される。患者の詳細は明かされていないが、今後10名の患者に対して有効性を試験するという。PD1が機能しないため癌細胞が増殖できない。今後6カ月の間、副作用などの安全性の確認が行われるが、研究チームはその後の経過も観測するとしている。
Source: Cancer Research UK
PD1の機能停止によって癌細胞が活性化しないことはすでに確認されているため、遺伝子編集による治療法が画期的な効果をもたらすと癌治療の医師たちは期待を持っている。
一方で遺伝子を抽出、編集してから増殖して元に戻す一連のプロセスは多大の時間と労力が必要であるため、効率の良い治療技術には向かないという批判もある。最終的に抗体を用いる従来の治療法に対する優位性を認められるかどうかの結論を出す時期ではない。
また遺伝子編集技術そのものに対する倫理的判断が国際的なコンセンサスを得られていない現状では、宗教団体の反対のない中国が先行することになる。