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EVの最大のメリットは環境性能、すなわち車を走らせる時に温室ガス排気がゼロとなる点である。厳密には原子力における燃料製造過程のように製造やバッテリー生産工程は別にした議論なのだが、ゼロエミッションが一人歩きしてEVは急速に販売を伸ばしている。世界的な潮流となりつつあるEVシフトの背景を考察する。
EVシフトの潮流はいつまで続くのか
ではEV販売は本当に落ち込みブームは去ったのだろうか。専門家の間でもEVの予測はEVインセンンテイブ、環境税など排出ガス課税、価格、インフラ、実用性など不透明な要素が多いからである。しかし以下の図のようにガソリン価格の減少で上のグラフ同様に2015年に停滞したEV販売は2016年に持ち直した。2009年度以降は米国内のHV販売は減少が続く中でPHVも、EVもとともに販売を伸ばしている。
充電インフラが十分でない現状でもHVからEVへのシフトが始まっている。本質的にガソリン車であるHVが伸び悩む中で、EVは従来の自動車の殻を破った新しい「乗り物」としてのステータスが定着しつつある。EVに価値を見出す人にとっては充電インフラ不足や充電待ち時間は苦にならない。新しい「乗り物」としての価値を認められたということなのだろう。確かにエコカーとしての価値だけではなく、1-100km/h加速が3秒以下(注1)というスーパーカーの性能が簡単に手に入るEVは若い世代にとって富裕層にならずとも容易に手の届く夢である。
(注1)スーパーEVの世界はすでに1-100km/h加速が3秒以下で争われるようになっている。テスラEVでもモデルSP100Dは2.7秒で航続距離が572kmという数値でEVの先端モデルの性能がハイエンドガソリン車を凌駕する時代になった。
HVは高速運転の燃費はガソリン車と大差ない。もはやエコカー(注2)ではないので、HVからEVへのシフトは自然な流れなのかもしれない。またPHVは充電インフラの不安を解消するとともに、車内に「電気生活」を持ち込めるので、SUVを中心にした人気も高い。ただしSUVの人気が高いのは一般的な傾向であるが。スーパーEVを除けばHVからPHV、EVへのシフトの潮流は利便性と経済性の両立で理解され流。その場合、しかし順風だけとは限らない。利便性と経済性のいずれかに消費者が不安を感じる場合にはガソリン車への逆行もあり得る。
(注2)購入に際してインセンテイブが受けられない他、カープールレーンを使う権利などエコカー認定の優遇が受けられなくなる。
EVのネックはバッテリーと充電インフラ
EV販売の鍵を握るのは車両価格でありその1/3がバッテリー価格である。バッテリー価格が1年で35%も下がっていることを考慮すると、2040年までに35%がEV化すると予測されている。下に示すようにバッテリーの価格の減少(左)は生産量の増大(右)によってもたらされる。
Source:bloomberg
2020年代の世界のバッテリー生産量はテスラ社がパナソニックと共同出資で建設しているギガファクトリーの年間生産量(35GWh)以下程度であるが、世界的に見ればテスラ社が予定する年間50万台を大幅に超える生産量を確保しなければならない。世界各国の4輪車保有台数(2014年末)は約12億台でこの35%は約4億台となるからである。バッテリー供給能力を天文学的に増大しなければ対応できない、すなわちEVシフトのボトルネックはバッテリー供給能力にある。
次にバッテリーの次に重要なのは充電インフラである。まず急速充電ステーションの拡充にはEVメーカーや自治体、販売店、商業施設の努力で充電ネットワークが整備されつつある。欧州ではコネクタの共通規格の恩恵も無視できない。リチウムイオンバッテリーの宿命として80%以上の急速充電はできないので、容量によらず80%急速充電に30分かかる。したがってドライバーは長距離ドライブ前に充電ステーションの場所を調べておかなければならない。将来EVの台数がこのまま増加して行けば、充電ステーションの待ち時間も増える恐れもある。充電作業で「利便性」が損ねられればEVシフトに逆風になりかねない。バスなどの公共交通機関では運航スケジュールに充電を組み込むことができるので、都合が良い。
石油価格値下がりが逆風に
意外であるが、石油価格の減少でEVシフトに最も積極的であった米国で消費者のEV熱に陰りが見えているとするForbs記事もある。石油価格減少以外にもトランプ大統領就任に伴ってホワイトハウスのウエブから地球温暖化に関する記述が削除されたことに象徴されるように、地球温暖化CO2排出ガス犯人説が科学的に疑いが持たれ、排出ガス規制の意識が薄れたこともあるかもしれない。
Forbs記事ではEVとHVから買い替える71.5%が燃費の良くなったガソリンエンジン車を購入したという。確かに下図に示した2013年までの石油価格(ガソリン価格に連動)とEV、PHVの販売台数には明瞭な相関が見られる。
Source: Bloomberg New Energy Finance, 2015
EVの先にはFCVへのシフトがあるか
EVの利便性が認められシフトが進む中で、水素社会に向けて水素を燃料としたFCV導入も加速するであろう。急いでいるときにはスマホ充電の時間さえ惜しい。待ち時間を含めた充電時間が長ければ、また充電ステーションを探すストレスで「利便性」が失われる。一方、瞬時に燃料充填が済むFCVはEVに比べて充電待ちというストレスがない。
FCVのボトルネックは水素ステーション・インフラに尽きる。大規模な水素製造には熱エネルギーや電力必要になるので、大規模な水素ステーションの展開数は限定される。一方、小型水素ステーションの供給能力は小さすぎる。将来的には太陽エネルギーを利用して光触媒で水素を水から製造する技術が普及し自宅や職場、街中で水素を充填できるようになれば話は別である。住宅に設置された太陽光パネルで発電し、蓄電して充電を行うことも普及に大きく貢献するだろう。テスラ社が蓄電用に壁掛けバッテリーパックを販売しソーラー住宅屋根の企業を買収して工場を増設する目的は太陽光パネルで発電し、自宅で充電するEV生活を実現するためである。
バッテリーも燃料電池(水素)もエネルギーを貯蔵することが個人レベルで可能になった点が画期的なのである。電気会社や石油企業の利益に関係ない自由なエネルギーが解放されることにこそ意味がある。EVもFCVもガソリン車からのシフトは、化石燃料から脱却することに他ならない。そう考えるとPHV、EV、FCVへの変化の潮流はもはや止められないであろう。