Credit: NASA
宇宙の大部分を占める暗黒物質は宇宙の起源を探る上でも、素粒子物理の観点からも重要な研究テーマで各国の研究者が精力的に取り組んでいるが、ブラックホール同様、未解明の部分が多い謎の物質である。光を発しないし吸収もしない暗黒物資は宇宙と重力波による以外、相互作用しない。
地球上の軌道からγ線を観測するNASAのフェルミ望遠鏡によって銀河系内に存在する暗黒物質の証拠が得られた。暗黒物質からの信号は銀河中心からのγ線として観測され、これまで知られているどの天体にも見られない弱い相互作用と質量を持つ粒子(注1)で矛盾無く説明できることがわかった。
これまで銀河の振る舞いから銀河クラスタの構造に至るまで暗黒物質の存在を示唆する証拠は多々あったが、その質量を直接観測することはできなかった。宇宙線のマイクロ波バックグラウンドも宇宙の質量の大部分が暗黒物質によるものであることを示唆していたが、今回の研究で何もないはずの空間に質量の存在を裏付ける重力波のレンズ効果を見出した。
暗黒物質を構成する謎の粒子の特定には、CERNの大型加速器(LHC)の実験が期待される。LHC実験から期待を持たせる実験結果は得られても、決定的な証拠にはならず統一した粒子の描像を得るには至っていない。
Credit: NASA
数年前にもフェルミ望遠鏡は銀河中心に暗黒物質の衝突によるとみられるγ線バーストを観測していたが、研究者の多くの確信を得られなかった。フェルミ望遠鏡に関わる研究者たちは大量のデータを解析し精度を上げ確証をつかんだ。知られている高エネルギー事象を取り除いても銀河の中心にある強いγ線を放出する領域(ホットスポット)を見出した(上図右コラム)。
またこのホットスポットは銀河中心のブラックホールと中心が一致するが6500光年に及ぶ広範囲の領域にはγ線の起源となる恒星の密度は高くないので、別の原因(謎の粒子のγ線への転換)でしかホットスポットを説明できない。
(注1)暗黒物質を構成する謎の粒子の候補としてアクシオン(axiaon)粒子が注目されている。アクシオン粒子はγ線へ可逆的に変換される性質を持ちγ線への変換の痕跡として空間の歪みを残すと考えられている。
世界最大の加速器LHCの後継としてさらに巨大な加速器実験も提案され加速器による暗黒物質の探求も拍車がかかっているが、規模と財政負担が大きく一国の経済規模では整備することが現実的には困難になっている。フェルミ望遠鏡によるγ線の解析で、暗黒物質の存在は確証が得られると加速器実験で狙うエネルギー領域も絞り込まれて実験が遥かに容易に、また経済的になる。宇宙の観測と加速器科学が協力して未知の分野を切り開くことの重要性が高まったといえる。