イオントラップ量子計算機の製造技術が確立

03.02.2017

Photo: Univ. of Sussex

 

D-Wave Computerから128qubit量子計算機が市販され、IBMが量子計算機サーバーのオープンアクセスを開始している。しかし量子素子の型式が統一されているわけでもなく、その製造方法が確立したとは言えなかった。英国サセックス大学のイオン量子技術グループは2017年2月、世界で初めてイオントラッップ型量子計算機の製造方法を明らかにした(Nature, Feb. 1, 2017)。

 

サセックス大研究グループが開発した量子計算機チップはイオントラップ型で、イオンをレーザー冷却して捕捉しそれぞれの「量子もつれ状態」を制御する原理(Scientific American, 11 Aug. 2008)に基づいている。これまでの量子計算機は研究用の域を出なかったが今回の研究により基本的な量子接合を集積化することによって、2,500qubitに相当する大規模な量子計算機を製造することもできる。

 

 

Credit: APS/Alan Stonebreaker

 

イオントラップ型ゲート(上図)ではRFとDC電圧で制御される電界中のmK温度のレーザー冷却により捕獲され、|0>状態は別のレーザー励起で蛍光(インセット)として読み出される。レーザービームをイオンに照射して量子もつれ状態をつくるイオントラップ型量子ゲートでは、イオンごとに個別のレーザービームが必要となるため大規模化には適さない。

 

そこでサセックス大学の研究グループはレーザービームによる制御を(従来の論理回路のゲート制御と同様に)電圧制御で置き換えるXゲート(下図A、B)を開発した(Phy. Rev. Lett. 117, 220501 2016)。Xゲートでは液体窒素で冷却したチップ全体をRF照射とDC電圧で、局所的電界とイオンの相互作用を制御する。

 

Credit: Nature

 

従来の計算機では110日を要する2048ビットの数値の素因数分解には、イオントラップ量子計算機では誤差補正を含めれば20億個のイオンに相当する4,096qubitが必要となる。チップが連結され量子情報を持ったイオンのチップ間移動で計算能力を増大することにより、フォトニックコンピューターの10万倍にもなる。またXゲートはシリコン基板上に従来の露光技術でつくることができるので設計の柔軟性に富む。

 

このようなX接合36x36配列に集積化されたチップを真空中チェンバー中固定することにより、量子計算機が製造できるとしている。研究グループはサセックス大学にプロトタイプ量子計算機を2年以内に製造する計画である。

 

量子計算機の普及により大規模計算能力が必要な計算科学が飛躍的に進展し複雑な気象予報や地球モデルの精密化、薬剤設計、遺伝子解析、天文学などインパクトは計り知れない。