イラン原子力施設で放射線源が行方不明に

28.11.2016

Photo: nowtheendbegins

 

湾岸協力会議(Gulf Cooperation Council)はイランのブーシェフル原子炉から放射性の原子炉器材が紛失したこと警戒感を強めている。器材は車での移動中に盗難にあった。テロに利用される恐れの他に環境汚染のリスクを憂慮している。

 

湾岸協力会議はIAEAに報告したため双方で対テロ対策と環境汚染の防止の観点で器材の行方を追っている。湾岸協力会議の参加国、サウジアラビア、クエート、UAE、カタール、バーレーン、オマーンは湾岸に海水脱塩施設を有しているため、ペルシャ湾が放射能汚染されればこれらの施設が使えなくなる。

 

ペルシャ湾に面したブーシェフル原子炉(下図参照)は1980年代のイラン・イラク戦争で空爆により破壊された。1995年にロスアトムが援助して出力1000MWの原子炉(軽水炉)が2011年からイラン原子力機構の管理下で稼働している。

 

 

Source: NYT

 

紛失器材の詳細は不明であるが出力が74日(注1)で半減するとの発表からIr線源と特定できる。イラン政府は核開発が放棄されたため原子力施設の管理がずさんになったとして批判されている。経済制裁の終了とともにイランの核開発問題への関心が低下したが、米国次期政権がイランの核軍備(能力)の完全に取り除くとしたトランプ氏の発言で、再び注目が集まっている。

 

(注1)半減期が74日の核種はIr192である。Ir192線源は非破壊検査や放射線治療に用いられる。過去に盗難や紛失での環境汚染、被爆事故も報告されている。輸送を含む取り扱いはその国の原子力機関により規制が厳しい。

 

イランへの圧力が高まれば経済制裁前の水準に戻りつつあったイランの石油生産が再び引き下げられる恐れがある。米国議会ではイラン制裁延長法案が可決され2016年12月まで制裁が延長されることとなった。これによってイラン国内の原子力産業への投資は罰せられ核開発を抑制することになる。しかし原子力施設の適正な維持・管理ができなくなれば、今回のような放射性器材の盗難などテロに使われるリスクや環境汚染の問題が生じることにつながる。

 

 

イラン制裁延長法案は上院の決議とオバマ大統領の承認が必要である。法案成立によるイラン制裁の延長の可能性が高くなる中で、今回の事件は法案成立に影を落とす。廃炉やバックエンド(使用済み核燃料処理)が原子力平和利用にに暗い影を落としている。核施設を安易に放棄することの危険性も認識しなければならない。