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Liイオンバッテリーは高いエネルギー密度性能で独走態勢にあるが決して万能ではない。最近の発火事故で携帯端末の危険性が認識されるようになったが、本質的な構造上の危険性は改善されていない。また充放電回数限界(多くは500回)を超えると蓄電性能が低下し膨潤するなどの不具合が起きる。これらの問題のほとんどはLiイオンをインターカレートする炭素系陰極材料(グラファイト)の不安定さに起因することが知られている。
このためLiイオンバッテリーの性能を左右するボトルネック、グラファイト電極は精力的に研究開発が行われてきた。このほどカリフォルニア大学リバーサイド分校の研究グループはシリコンを陰極材料に採用するナノ技術でLiイオンバッテリーの陰極材料に起因する劣化問題を解決した。
グラファイト電極がボトルネック
特にグラファイトの劣化とエネルギー容量が深刻な問題となっていた。炭素と同族のシリコンは炭素に比べてエネルギー容量が1桁大きく、地球上に大量に存在する有力な陰極材料候補と考えられているが、実用化にはふたつの問題が壁となった。まず純シリコンはグラファイトに比べて電気伝導度が低く、クーロン効率が低い、すなわち充放電でのエネルギー損失が多い。また充放電のLiイオンの吸着・脱離で欠陥が成長してクラックを生じる。バッテリーセルはそのため構造的に弱く機械的衝撃で破損につながる。
シリコンナノ構造で問題解決
研究グループはナノ繊維でできたスポンジ状シリコンを用いることでこれらの技術課題を一挙に解決することに成功した(Scientific Reports 8246, 2015)。高電圧を印可したノズルからシリコン化合物溶液を回転したドラムに吹き付け、シリコン酸化物のナノ繊維をつくる。次にマグネシウム蒸気による還元でシリコンナノ繊維とする2段階プロセスで、直径10nmのスポンジ状のシリコンナノ繊維が得られる。この材料はシリコンの体積分率が低く膨潤してもセルへの損傷がない。
新開発のシリコン陰極型Liイオンバッテリーはバインダーが不要のため軽量化でき、600回の充放電後の蓄電容量が802mAh/g、99.9%のクーロン効率を持つ。
シリコン陰極Liイオンバッテリーの登場でグラファイトを置き換えることでエネルギー容量が高くグラファイトの脆弱性を取り除くことができた。この技術で今後のLiイオンバッテリーの性能と安全性は飛躍的に高まると期待されている。注目すべき点はスポンジ状、泡状といったナノ構造でバッテリー性能が高まっている。このことは携帯端末やEVだけでなく再生可能エネルギーの貯蔵でベース電源化が進むことを意味している。
下図でa,bはシリコン酸化物ナノ繊維、c,dはシリコンナノ繊維のSEMイメージで、b,dは高倍率イメージ。