Credit; Hyperloop Transportation Technologies
ハイパーループ(Hyperloop)はイーロン・マスクが提唱した減圧チューブによる高速輸送列車構想で、その実態はオープン・ソーシングが支えるベンチャー公共事業プロジェクトである。ロサンゼルスを拠点とする2社が参画しているほか、設計と技術開発を国際コンペを含むオープン・ソーシングに特徴がある。
中心となる2社、HTTとHyperLoop Oneは互いに競合関係にあるが、キーテクノロジー(浮上方式と減圧チューブ内運行)を共有している。
HTT(Hyperloop Transportation Technologies)
HTTは全従業員800名が50チーム(以下に一部を示す)でオープン・ソーシングの設計作業を進めている。ハイパーループ構想に共感した有志エンジニアのクラウドソーシングによる公共輸送プロジェクトの実現を目指す。
Cloud outsourcing
H-Vacuum Team
Power System Team
Market & Growth Team
Branding Team
User Interface Team
AR/VR & Animation Team
Route Optimization Team
Systems Market Research Team
Video Team
Fuselage Team
Product Management Team
Government Affairs (Country) Team
Product Planning & Innovation Team
System Structure Team
Business Development & Sales Team
Graphic Design Team
Quay Valley HRDC Team
Compressor Team
Design Experience Team
Design/Station Team
Global Operation Team
チーム編成を見ると鉄道輸送というよりITソリューション事業のような部署が多いことからわかるように、IT企業からの転向組が多い。彼らは報酬をストック・オプションに頼り自分の夢としてプロジェクトに参加し、設計作業やマーケテイングなど広範囲の仕事を分担する。
HTTは当初の空気圧浮上方式を磁気浮上方式に変更した。浮上と推進にはローレンスリバモア国立研究所の開発したインダクタトラック方式が採用された。JRの中央新幹線で使われる超伝導電磁石の代わりに永久磁石配列(ハルバック配列)で浮上、推進には車両のバッテリーで駆動する推進電磁石からなる。軌道側面に電磁石が設置され、車体の推進用電磁石と位相を合わせてリニアモーターとして機能し、推進力を得る点ではJRと同じであるが、ハイパーループで用いる誘導反発型磁気浮上方式は発生した渦電流の熱損失が大きいため、JRが採用しなかったものである。しかし永久磁石の進歩で発生磁場が強力になったことで安全性が担保され、渦電流の熱損出を低くする技術に目処がたったものと考えられる。後者についてはオープンになっていないが、ハイパーループは車両あたり最大で28名とJRの検討した車両重量より遥かに軽いため、この問題がネックとならないようである。
日本でも強力な導体の上を水平に永久磁石を回転させて磁気浮上をさせる研究が九州大学グループによって行われている。ハイパーループでは回転させる代わりに小さな磁石を組み合わせたハルバック配列によって、巨大な磁石に相当する磁力線を発生し磁石列の走行により誘導浮力を得るアイデアがキーテクノロジーとなる。推進コイルの技術は他のリニアモーターカーと同じである。
HTTが念頭に置くのは高速鉄道の計画があるロサンゼルス~サンフランシスコのUS5に沿ったルートで、途中のQUAY Valleyに8kmのフルサイズ試験ルートを予定している。また国際的には規制緩和で建設しやすいSlovakiaを拠点に欧州都市の高速輸送システムも視野に入れている。
競合企業
HT(Hyperloop Technologies)は現在、Hyperloop Oneとして競合関係にある。こちらはUberやアリババに投資する有力ベンチャー投資家がスペースX社でファルコンロケットやドラゴン宇宙船の設計に関わったエンジニアと設立、元シスコCEOをCEOとしたベンチャー企業らしい事業形態をとる。
ネヴァダ州にテスト施設を建設し2016年5月に1km区間でプロトタイプ車両で0-100k/h加速1.1秒を記録、走行試験ではHTTに一歩先んじている。Hyperloop Oneは200名の社員を擁するが、基本的に参加が自由なオープン。プロジェクトである。
2010年に貨物輸送、2021年に旅客輸送開始を目指しUAEドバイ~アブダビ間の路線をUAEと合意している。磁気浮上については基本的にHTT社と同じ誘導電流による磁気浮上と推進力を分離したパッシブ・リニアモーターである。
スペースX社との関係
イーロン・マスクは直接的な関与をしない方針だが、スペースX社はポッド設計の国際コンペ(Space X Hyperloop Pod Competition)を主催するなどハイパーループ事業を支援していく。またスペースX社はカリフォルニアの本部敷地内でポッド設計優勝チームが実験をう施設の建設のための企業AECOM社を立ち上げている。
ポッド設計の国際コンペには120チームが参加し、優勝者はMITチームで上位23チームが試作ポッドを製造し2017年にHTネヴァダ州試験場で走行試験が行われる。基本的にはイパーループはオープンソースなので設計案は競争と試験を勝ち抜いた案が共有されることになる。日本から参加した慶應大学アルファチームも上位23チームに選出されている。
ポッド設計国際コンペトップ5は以下のチームである。
1. MIT
2. デルフト工科大学
3. ウイスコンシン大学
4. バージニア工科大学
5. カリフォルニア大学
上のトップ5の中で特筆すべきはオランダのデルフト工科大学で、学生を中心としたDELFT hyperloopで、アムステルダム-パリ間のハイパーループ構想を練っている。
・アムステルダム-パリ間を30分で結ぶ
・航空運賃以下の運賃
・CO2ニュートラルなエネルギー
・150kgのポッドに8名乗車、磁気浮上
DELFT Hyperloopはボブスレー競技のそり(4名)を倍にした規模のコンパクトなポッドでDHLは貨物輸送の観点から支援企業となっている。浮上機構は誘導反発型で基本的にはHTTと同じであるが非常にコンパクト、軽量ポッドに仕上がっている。
ハイパーループの当初計画では浮上に圧縮空気を用いる案であったが、減圧チューブ内で空気圧に頼る技術課題がネックとなり、超伝導リニアモーターカーの浮上用超伝導電磁石を常伝導磁石ハルバック配列に置き換えることになった。それでも常伝導磁石の方がクエンチの危険性がないなど有利な点もあるが、浮上距離の点で見劣りするため地震対策などの安全面の課題が多い。鉄道をつくった経験のないエンジニアが音速に迫る高速列車を安全に運行させられるのか懐疑的な意見も多いが、列車という概念はない新概念交通機関として未来的高速輸送機関と考えればスペースX社のように失敗を繰り返しながら目標を達成していくかもしれない。
ハイパーループの画期的な点はこれまで政府資金で整備されてきた公共輸送機関を民間の資金で建設し採算性も確保する事業をオープン・ソーシングによるベンチャーが取り組むことである。もちろん背景には永久磁石技術の進歩や高速輸送の需要があったが、公共事業の採算性の悪さと都市部の渋滞による社会インフラの閉塞案があった。公共ビジネスが若い世代に夢を与える「全員参加型」ベンチャーとして成り立つのか注目されている。
credit: Gizmodo
サンフランシスコとロサンゼルスを車で行き来するには2つのルートがある。太平洋岸に面した風景が美しいUS1と砂漠地帯を走るUS5である。前者は景色が素晴らしいがまがりくねり
時間がかかる。後者は直線で高速に移動できるが1980年ごろはほとんど砂漠であった。Quay Valleyもその例外ではないが、複数のショッピングモールや娯楽施設を持つ近郊開発地域である。