パーキンソン病に遺伝子治療の可能性

19.02.2017

Photo: medicalxpress

 

パーキンソン病はアルツハイマー症と並ぶ代表的な脳神経変性疾患で、中脳黒質のドパミン分泌細胞の変性によるドパミン不足が原因で起きる神経機能障害である。症状が進行すると運動機能障害や認識機能障害を引き起こすがそのメカニズムは理解されていない。

 

ロンドンのキングス・カレッジの研究グループはパーキンソン病などの神経変性を引き起こす遺伝子機能を阻害する遺伝子を発見した(PNAS, 112 44 E6000 (2017)))。世界で患者数が700-1000万人とされるパーキンソン病の治療はこれまで対処療法に限られていたが、今回の発見で抜本的な治療法につながると期待されている。

 

上の写真はショウジョウバエの幼虫で緑色は蛍光を出すように遺伝子操作された神経細胞。キングス・カレッジの研究グループはこの手法で神経細胞を可視化して研究に用いた。

 

 

鍵となるHIFアルファ遺伝子

研究グループによればミバエの損傷ミトコンドリアが神経細胞の機能を停止する機能を持つこと、その損傷ミトコンドリアが神経細胞機能を停止する信号をHIFアルファという遺伝子で制御できることを見出した。このHIFアルファ遺伝子を不活性化すれば、損傷したミトコンドリアによる神経障害(パーキンソン病)の遺伝子治療に役立てられることも明らかになった。

 

新生児のレイ症候群(注1)と呼ばれるミトコンドリア損傷によって起きる神経障害についてもパーキンソン病同様の効果が確かめられた。HIFアルファ遺伝子はヒトも持っていることから、抜本的な遺伝子治療法が可能になると考えられている。

 

(注1)ウイルスや薬物が誘因となって全身のミトコンドリアが機能障害を起こし、脳浮腫、高アンモニア血症、低血糖、脂肪の沈着が起きる病気。

 

 

ミトコンドリアは細胞に含まれる小器官で、主要な機能は電子伝達系による酸化的リン酸化によるATPの生産で、細胞活動に必要なエネルギーをATPの形で供給することである。まさに生命の源となる代謝活動を支えるミトコンドリアはまた様々な代謝、カルシウムや鉄の細胞内濃度の調節、細胞周期やアポトーシス(細胞死)の調節などにも関わっているため、損傷を受けるとパーキンソン病などの神経機能障害を引き起こす。パーキンソン病では遺伝的あるいは外部環境刺激で下図のカルシウムチャネル(神経伝達機能)が損傷しアポトーシスを引き起こす。

 

 

Source: thelancetnorway

 

損傷ミトコンドリアが神経細胞のきのう停止信号を出していることを突き止めたこの研究によって、神経機能喪失で起きる運動障害がHIFアルファ遺伝子による遺伝子機能治療で治療できるのでパーキンソン病を含む神経機能障害の治療は大きく進展するとみられる。遺伝子治療は急速に進みつつあり難病、不治の病とされてきたパーキンソン病にも治療の道筋がつけられようとしている。