Credit: Berna Sozen-Kaya, Zernicka-Goetz Laboratory, University of Cambridge
幹細胞が発生初期の多くの細胞に転換できるため、幹細胞から異なる器官を形成する知見が得られる胚幹細胞に関する研究が盛んである。このほどケンブリッジ大学の研究チームは世界初となる幹細胞から発生させたマウス胚をつくりだす試みに成功した。
幹細胞から胚発生
幹細胞は胚発生の初期にひとつの細胞から心臓、肺、皮膚などの細胞に分化する万能細胞となる。形成後の3-5日後の期間の人間(哺乳類)の胚は胚盤胞と呼ばれる。胚盤胞は受精により発生する胚幹細胞(ESC)の他にトロホブラスト幹細胞(TSC)を含む。後者は胎盤と養分を供給する卵黄嚢になる原始内胚葉となる。
ケンブリッジ大学の研究チームは胚幹細胞と胚盤胞だけから世界で初めてマウス胚を得ることに成功した(Science 02 Mar 2017)。
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鍵となる胚幹細胞と胚盤胞の交信
研究チームは遺伝子操作を行った胚幹細胞と胚盤胞とそれらの分化を助ける生物化学的反応を用いてマウス胚が形成された。マウス胚を形成する際に胚幹細胞と胚盤胞が新しい細胞が発生すべきタイミングと場所に関する情報交換を行っていることがわかった。
今回の人工的な胚形成ではこの連携によって初めて正常なマウス胚が形成される。この知見が得られたことで幹細胞が胎児を保護する羊膜腔をつくりだす「自然発生」胚形成のメカニズムの理解に近づいたと言える。
人間の胎児成長メカニズム解明に向けて
ケンブリッジ大学の研究チームはこの他に人間の胎児を試験管内で着床期を越えて育てることにも成功しており、人間の胎児成長のメカニズムの理解が進むことで成長中の障害(先天性欠陥)を予防することにつながると期待されている。
今回の研究には遺伝子編集技術やこれまでの幹細胞研究の知見が総動員されている。遺伝子治療と並んで幹細胞の応用研究で、難病や先天性疾患がなくなる日も遠くない。しかしその技術がオープンNいなり1%富裕層にのみ使われるリスクもあることを認識しておく必要がある。