Credit: Liac Amirav, Technion-Israel Institute of Technology
水分解反応は水分子を酸素とプロトンに分解する負極反応とプロトンから水素を生成する正極反応の4電子2反応プロセスである。この中の還元プロセス(水素発生)の可視光によるエネルギー変換効率はこれまで60%止まりだったが、このほどイスラエルの研究グループが効率100%を達成した(Nano Lett. 16 (2016) 1776)。
これにより水分解の研究の課題は水分子を酸素とプロトンに分解する酸化プロセスが中心となった。研究チームはプラチナを先端としたCdSe・CdS複合ナノロッドでOH-のラジカル化とプロトンの還元を組み合わせて、可視光による水素発生効率100%を実現した。
太陽光で水分解により水素を発生させる光触媒は枯渇する化石燃料と温室ガス削減の理由で地球環境に優しいクリーンエネルギーとして期待されている。燃料電池の燃料である水素は、再生可能エネルギー(太陽光発電や風力発電)を安定電源化することができる。日本は光触媒分野ではTiO2触媒の先駆的研究に始まり多くの大学・研究所・企業で研究開発が続けられているが、実用レベル(15%以上)に手が届いていない。
複合ナノロッド
プラチナ金属の高い触媒機能は知られていたがコストの面から非プラチナ金属材料へ材料探索研究の方向が向いていたが、ナノロッドの先端部分のみに使用する今回の触媒では、少量で済む。
研究グループの開発した複合ナノロッドのTEM像(下図左)は長さ約50nmのナノロッド先端にプラチナナノ粒子(TEM像の黒い部分、右図紫の部分)が確認できる。ナノロッド先端のプラチナ粒子部分(右図紫の部分)で100%の効率でプロトンから水素を発生する還元反応が進行する。合成されたナノロッドは発生頻度は1秒あたり100水素分子、すなわち毎時360,000個となる。
カーボンナノチューブで複合ナノロッド
なお非プラチナ金属を用いる水分解触媒としてカーボンナノチューブ上のTiO2膜にパラデイウム金属を埋め込むことで高効率化が達成できる報告(Nature Comm. 13549 (2016))もある。
水分解反応はクリーンエネルギーの発生源であると同時にエネルギー貯蔵を可能とする。複合ナノ触媒でコアーシェル構造を作り触媒機能を向上する試みはこれからますます活発になると考えられる。
Credit: Liac Amirav, Technion-Israel Institute of Technology
水分解反応の効率を上げるポイントは触媒中で光励起により半導体(ここではCdSe/CdS)中で発生する電子と正孔が結合して消滅しないように、分離して両極に移動させ、水分子分解(還元と酸化)反応に使うことである。従来は4電子反応に対応するため2つのプラチナ(2価)金属チップを利用していたが、その効率は最大58.5%で、今回の研究では1つのプラチナ(2価)金属チップにすると100%効率となった。
実用化の観点から見れば今回のpH濃度が高すぎること、 CdSロッドが長期間の光照射で腐食する問題を解決しなければならない。半導体中の正孔を損失なく集めて水分子に供給してプロトンを発生させるためには、IrO2やRuなどの補助触媒を利用することで対応できる可能性がある。
今回の結果で水素発生反応については区切りがついて、研究の方向性が正孔を効率よく水分子に供給する方法になり、光触媒のターニングポイントとなる。