多孔質グラフェンで海水を淡水化

04.04.2017

Credit: MIT

 

海水の淡水化は水分子に適したポーラス物質のフイルターを何層にも配置して、Naイオン、Clイオンを除くシステムが一般的である。MITの研究グループはこのほどグラフェン膜に水分子を通す穴を持つ多孔質グラフェン膜で、現在可能な濾過速度よりも100-1000倍高速に海水の淡水化する技術を開発した。

 

海水の塩分濃度(3.5%)を濾過して淡水化するには塩分(Na、Clイオン)を濾過して0.5%以下にしなければならない。これまでの樹脂フイルターでは浸透圧に打ち勝つため、高圧力(1000-1200psi)を印可するが、それでも透過時間が遅く濾過効率が低い問題があった。開発した新しい濾過技術ではグラフェンの高い親水性により逆浸透圧濾過に要する時間を飛躍的に短縮した。この手法はエネルギー消費が少なく多孔質グラフェン膜製造技術次第で淡水化コスト(注1)の大幅な引き下げが可能になる。

 

(注1)海水の淡水化には蒸発させ水蒸気を冷却して真水にする方法と逆浸透方がある。前者は多段式で行われるため多段フラッシュと呼ばれるが、蒸発させる加熱のため熱効率が低い。後者は圧力で逆浸透膜から水分子を押し出して濾過する方法。

 

使用する単原子グラフェン膜はナノポーラス形状であるが、全体としては強固なC-C結合で2D構造を保っている。MITの研究グループはナノサイズの穴の直径を変化させて、圧力下で海水の濾過を計算機シミュレーションで調べた結果(Nano Lett. 12 3602 (2012)、ナノポア(穴)の端をOH基で修飾した条件でイオンを透過せず水分子だけが透過することを見出した。

 

MITグループは多孔質グラフェンフイルターが、これまで最速の濾過速度に比べても数桁大きいことから、水不足の解消に大きく寄与するとみられる。実用プラントの規模は1-100万トン/日で中東など水資源が不足している国にとっては海水が水資源となっている。

 

多孔質グラフェンの持つ表面積が大きい特徴は水素発生電極に応用されている。電極への広範囲な応用を目的に多孔質グラフェンの量産技術に関する研究も開発が進んでいる。フイルターへの応用では穴の直系の均一性とOH基の修飾技術がネックとなるが、近い将来実用化されれば水資源の枯渇に備えることができる。