癌細胞の正常分裂を阻害する酵素蛋白を発見

11.12.2016

Photo: The Institute of Cancer Research

 

癌細胞の特徴は正常細胞に比べて成長が早いことである。この性質は放射線治療で癌細胞で折りたたまれていない(無防備の)DNAを特異的に破壊して、癌細胞を死滅させる原理となっている。

 

英国癌研究所、ケンブリッジ大学、ダブリン大学の研究チームがこのほど有糸分裂時にBuBR1と呼ばれる酵素蛋白が癌細胞の細胞分裂時に攻撃して破壊することを発見した。BuBR1分子が染色体を複製して細胞分裂した細胞が未熟な状態に置かれ死滅することを見出した(Molecular Cell December 8, 2016)。

 

BuBR1分子(注1)は分裂後に修飾染色体が複製されて定位するのを妨げる機能を持つ(。BuBR1分子を細胞から抜き取り変異させたものと置き換えると有糸分裂が時間を制御できなくなり、分裂後の細胞の染色体が均等に配置されない。研究グループはBuBR1のABBA配列と呼ばれる部分が染色体の分裂タイミング制御の役割を持つことを発見した。

 

(注1)体細胞分裂時の紡錘体形成チェックポイント(下図)で正常な染色体分裂に欠かせない存在で、癌治療に応用する試みが行われている。

 

 

Source: Wiki

 

癌細胞は正常細胞より多くの染色体を持つため分裂するのに余計な時間がかかる。BuBR1分子は染色体の分裂タイミング制御することを逆手に取って、わざと早い時期に分裂させれば、未熟な状態に置かれる分裂時を狙って癌細胞を死滅させることができる。下図左は均等に配分された正常な分裂期の染色体タンパク質複合体(キネトチア)を持つ分裂中期細胞。変異したBuBR1は染色体に不均等に配置し分裂異常を引き起こす。

 

 

Credit: Fox Chase Cancer Center

 

癌細胞の分裂を正常より早めて早熟な分裂をさせて死滅させる新薬も開発中で臨床試験中のものもある。今回発見されたBuBR1を利用した分裂タイミング阻害の機能を持つ新薬も将来は開発されると考えられる。

 

研究チームは癌細胞の特異な分裂現象の理解を深めることが効果的な癌治療に結びつくので、癌治療には基礎研究が重要であることを強調している。抜本的な癌治療には癌細胞の分裂を分子生物学的に制御する薬剤開発が重要となり、それには基礎科学の研究開発を重点的に進める必要が認識され各国とも優先的な予算配分が行われている。

 

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