Credit:Harvard University
新規原子炉建設が進まない中で再生可能エネルギーのベース電源化には大容量のバッテリー技術が必要不可欠となる。電気を水溶液中の正負イオンに貯蔵して両者の酸化・還元反応で発電するレドックス・フロー電池はエネルギー密度は低いが構造が単純で1,000kWクラスの大容量化が容易のため、再生可能エネルギー(太陽光、風力)の安定化に普及している。
ハーバード大学の研究グループは有機金属(化学修飾したフェロセン)と有機分子(化学修飾したビオロゲン)を用いた新型レドックス・フロー電池を開発した。この電池は優れた反応効率と充放電特性を有しながら充放電サイクルで世界最高の長寿命特性を持つ(ACS Energy Lett. 2 639 (2017))。新型レドックス・フロー電池は低コストで電力網に組み込むことにより再生可能エネルギーのベース電源化が可能になる。
Liイオンバッテリーはレドックス・フロー電池の5倍とエネルギー密度に優れている反面、1,000回の充放電サイクルに耐えることができない。Liイオンバッテリーは500回の充放電で容量が60%に低下する。メモリー効果や環境によってはさらに短くなる。再生可能エネルギーの安定化には大容量で寿命が長いことが必須であるが、溶液タンクのスケールアップで簡単に蓄電容量を増やせるレドックス・フロー電池(下図)はこれらの条件を満たしている。
Source: valve―world
しかし極性の大きい溶液に化学エネルギーとして蓄電するため溶液劣化が問題となり、蓄電容量劣化と長寿命化が課題となっていた。ハーバード大学の研究グループは正負溶液材料分子の安定化を行い1,000回の充放電サイクルの劣化が1%の高性能レドックス・フロー電池開発に成功した。
使用された有機物金属(フェロセン)と有機物(ビオロゲン)は安全で、安定性に優れているため、タンク材料設計も楽になる。1kWあたりの蓄電コストは100ドル(約11,200円)以下となる。
Credit: ACS Energy Lett.
これまで使われてきた材料が中性溶液中で劣化する機構を解明して、負極電解質材料(ビオロゲン)の劣化を抑えるため分子構造を変えて安定化を試みた。一方、正極電解質(フェロセン)は蓄電特性に優れているが水溶液にならない。そこでビオロゲン同様にフェロセンを化学修飾して親水性のフェロセンを開発した。上に示すように充放電を繰り返したときの電池容量低下が0.001%と極めて低い。またエネルギー効率は変化がほとんど見られない。
蓄電溶液が中性であるため劣化が少なく高性能と長寿命化が達成できた。新型レドックス・フロー電池により、安定性に問題のあった再生可能エネルギーをベース電源とする電力網が構築できる。東芝の巨額損失の原因もウエスチングハウス社を買収したものの工事遅れでコスト増加になったためで、米国の新規原子力炉建設は、コスト高騰という経済的理由で茨の道となりつつある。
レドックス・フロー電池で再生可能エネルギーをベース電源化することができれば、蓄電設備とセットで電力網に組み込める。(ドイツのような環境保全の観点からでなく)経済性で挫折した原子力はいかにも米国らしい。中央に原発を置いたスター型ではなく再生可能エネルギー発電施設が蓄電池システムとセットで組み込まれた分散型電力網への転換が早まるとみられる。