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Liイオンバッテリーの発火事故でサムスンの端末が回収され大きな損失を出したことは記憶に新しい。携帯端末やウエラブル電子デバイスにLiイオンバッテリーは欠くことができない部材だが、折り曲げられる柔軟性が求められていた。
パナソニッックは2016年10月にフレキシブルLiイオンバッテリーを市場に出したが、より高性能化を目指した電極構造の研究開発が精力的に行われている。シンガポール大学の研究グループはポーラスグラフェンとゲルマニウム量子ドットで容量1,220mAh/gで長寿命のフレキシブルLiイオンバッテリーの開発に成功した(Nature Comm. 8:13949, 2017)。
まず泡状のNiをワイヤーとしてその周囲に窒素ドープのグラフェン膜をCVD成長させる。その後で熱分解でGeO2ドットをグラフェン上に成長させてから、GeO2をNi金属で被覆し再度、CVDでグラフェンを成長させてから中心の泡状Niをエッチして取り除き最後に高分子電解質(PDMS)で全体を被覆すると泡状グラフェン上にGe量子ドットと泡状グラフェンがコア・シェルナノ構造が完成する。
下図でcは泡状グラフェンのSEM像、d、eは拡大像でeはGeコア・シェルナノ構造である。Liイオンを取り込んだGeは固溶体を作り体積が増大する。
Credit: Nature Comm.
このナノ構造は泡状グラフェンがポーラス構造であるため、Liイオンが容易に取り込まれGeがLiと固溶し体積が膨張してグラフェンとのコンタクトが密に接なる。従来は炭素を用いることが多い負極にGeを用いて大容量化を目指した。グラフェンシェルがGeコアを保護することで、安定で高性能のフレキシブルLiイオンバッテリーが実現した。
今回開発されたLiイオンバッテリーは従来のGe/泡状グラフェン/PDMS電極構造に比べて高性能(容量・充放電回数)である。ちなみにパナソニックが市販した従来型の構造のフレキシブルLiイオンバッテリーは最大60 mAh/gである。量子ドットのコア・シェルナノ構造はこれまで多くの研究があり、ナノ構造製法は確立していたが、泡状グラフェンを基板とした新技術でフレキシブルLiイオンバッッテリーの高性能化が可能になったばかりでなく、ウエアラブル電子機器にも応用が期待されている。
バッテリーや光触媒では3Dナノ構造化が高性能化に大きく貢献しているため、材料の探索と同様に微細加工技術が必要不可欠なアプローチとなった。