都市の犯罪率とギャングの落書きは比例するらしい。そうなるとこういう地下鉄にぎっしりそれらしいジプシーキッズが乗っていたらどうだろう。シカゴのループ、NY地下鉄、北京の地下鉄よりはるかに犯罪が多そうだ。実際に多い。スリという軽犯罪だ。
地下鉄は東京のラッシュアワーほど混むことはないが、空間の多さがジプシーキッズを獲物を求めて動き易くしている。
あるときテルミニか地下鉄でヴァチカンに行った。この ヴァチカン行きがバスも地下鉄も最もスリが集まるところだ。
事例1
車内は混み合っていた。2-3人の若い女性が赤ん坊を自分のお腹に抱えて、接近してくる。あっという間に取り囲まれたが笑顔で赤ん坊を押し付けてくる。そうか、パリのプラカード、ローマの美女、囮だったことを思い出した。案の定、赤ん坊の下から手が伸びて来てショルダーバッグを開けて来た。この間、アイコンタクトがあるし、スリにあっていることは自覚できる不思議な瞬間だ。現金だけを狙っていた彼女らはパスポートには目もくれず現金を触手で探しまわったあげく、ないとわかるとさっと離れて、降りていった。被害無し。シナリオ1は囮作戦である。
事例2
車内は混雑ではないが座席はいっぱいだったので立っていた。ローマの地下鉄には戸口に近い中央にポールがある。確か昔の東京(中央線)にもあったような気がする。ポールを背にして寄りかかっていると、次の駅でジプシー女性が乗って来て目が合った。
獲物に見定められた私の後ろに回り込もうとする。シナリオ2は後ろから手を伸ばす作戦か。そうとわかればポールが武器である。背中にポールをおいてそれを軸にくるっと回転して常に向き合うことにした。そのジプシー女性はさらに回り込もうとするので、回転していく。最終的に1回転したところで失敗したジプシー女性は、捨て台詞を残して降りて行った。被害無し。シナリオ2は死角を狙う、だった。
事例3
欧州に展開しているホテルメトロポールは、スパイが暗躍する場所として知られている。ひとつにはホテル内のセキュリテイが甘いからだ。例えばロビーのカフェでも勘定を忘れるウエイターが多い。仕事がいいかげんなのである。ローマのメトロポールの前を夜10時くらいに歩いていた。男が近づいて来て、ヴァチカンへ行く道を尋ねて来た。ローマのスリはスキルも頭も両方悪い。この時間にヴァチカンに行くのはよっぽど悪い懺悔をするためなのだろうか、あり得ないことなのでスリだとわかった。しかしここで意外な展開となる。話をしている我々のところに背の高いトレンチコートの私服刑事らしい男が登場する。トレンチコートの男がいう。犯罪捜査をしている。この男達はぐるだと直感した私は適当に応対していたが、隙をみてその場を逃れた。被害無し。シナリオ3はちょっとした劇を演ずる2人組だった。
事例4
2人組の場合は、「ボケと突っ込み」の役回りだが、演技力が低いので見破るのは簡単である。スペイン坂を降りずに右手に歩く小高い場所の歩道はローマ市内をみながら散歩を楽しめる私のお気に入りスポットである。観光ガイドにもないので人が少ないのも魅力だ。あるとき歩いてくると警官が近づいて来た。それを見ると吹き出しそうになった。「スタスキーとハッチ」よろしく、どこからみてもカリフォルニアの警官で、おまけにイタリア警察官が持つはずも無いバッジをみせて来た。
面白そうだったので話をきくことにした。自分は麻薬捜査をしている。札には麻薬が付着している。(これは本当だ。ドル紙幣の大半は麻薬が付着している。売人からキャッシュで麻薬を受け取り他の札と接触して拡散するからだ。)自分は臭いで麻薬がわかるから札の臭いをかぎたいという。
「こいつは麻薬犬か」、と思いながらドル札をみせて、札を引っ張り合う形になった。引っ張り合いを続ける二人の姿は滑稽だったろう。やがて警官はあきらめかけたが、ここで第三者の登場となった。シナリオ3の変形だ。この場面の結果は二人が札をつかんで分け合い、別々の方向に逃げる気だ。この間も、握った手に慢心の力を込めたので、もし強引に奪えば引き裂かれたはずだ。結局最後まで力を緩めなかったので、決着が着かなかった。被害無し。シナリオ3の変形で、共通点は「突っ込み」役が後から登場することである。
ミラノの一件以来、セキュリテイ度が上がった私はそれ以来、(自慢することではないが)イタリアで連戦連勝である。