大学は自由の象徴だ



 ローマ大学(La Sapienza)は市内の中心にある。テルミニから歩ける距離である。学生数は公称11万だが印象的には聴講生的な構内にたむろする得体の知れない学生もいれるともっとあるだろう。とにかく人があふれて臨時にテントを張った講義があるほどらしい。


 名前のSapiezaは「知恵」を意味する。写真は構内の中央に位置する物理教室。私の共同研究者がいたので毎年通った懐かしいばしである。


 ここは欧州の物理では名門で3人のノーベル物理学者を輩出しているが、最も有名で最も私たちの社会を変えた男、エンリコフェルミがいた。


 物理学教室は暗く建物も古いのでエレベーターは今にも落ちそうな危険を感じる。物理教室の玄関には古い実験機材が陳列してあり、科学博物館のようでもある。


 中でも目を引くのはマルコーニの無線機である。ノーベル賞に輝くマルコーニは支援者を募る研究体制と送信技術の実用化という似た研究分野で、特許を争う運命で結びつけられた境遇をテスラと共有する二人だが、物理学教室との関係は定かではない。


 大学は自由の象徴であったはずだがムッソリーニ時代は自由にとって苦難であった。物理学教室の隣には広場があり、ローマ帝国を思わせる講堂がある。ムッソリーニが建てたものだという。石段を歩いて上ると神殿の頂上のように大学が見渡せる気持ちのよい場所だ。


 また正門から物理教室に歩いて行くとツタで覆われた小道が現れる。私の好きな場所である。歩いて行くと大学の自由は「知識」にあり、逆にそれこそが権力から守る武器でもあったことを実感する。例えて言うと京大の「哲学の小道」のような小道だ。


 大学は乱雑に置かれた車と人ごみでカルチェラタンとなっている。教授や学生は昼になると近くのレストランで遅めの2時間ランチタイムをとる。


 政治家の悪口、女性のゴシップ、なんでもありの会話で教授や学生の垣根がなくなり盛り上がる。2時間あるので4人でワイン1本がちょうどよい。毎日、パスタとワインで店の外まで笑いがこだまする。豪傑は食後にグラッパ、そしてエスプレッソで仕事に復帰する準備が整う。


 2時過ぎにまた構内へと戻って行く。大学の自由度ナンバーワンのこの大学は変わらないだろう。