ワンワールドトレードセンター

Photo: TIME

 

 ワールドトレードセンターはブルックリン橋と同様に古い時代のNYを象徴するビルであった。このふたつは周囲の高層ビル群とマッチしていたと思うのは私だけではないだろう。実際に最上階に登ると風の強さに驚くとともにNY全貌が見渡せて気持ちがいい(よかった)。

 

 国立競技場の経費が問題になっているが、個人的にはZaha Hadidのデザインは少なくとも

周囲を無視したもので、デザイン自体は個性的で安藤忠雄が心を奪われるくらいだから、ダイナミックでインパクトがあることは認めよう。

 

 ワールドトレードセンターもコンペ優勝者の思い描くデザインとはかけはなれたものになり、工費が膨らんで工期も遅れた。しかしお米国は911で何も学んでいなかった。911テロの標的になったのはなぜかをよく考えてほしかった(と私は思っている)。

 

 世界の中心はNY。そこに世界一高いビルをつくりNYそして米国の存在を世界にアピール

したかった、ことなのだろうが実際に落ち着いたデザインはZafa Hadidの曲線に対して角張ったありきたりのデザインで、しかも、世界最高に到達できなかったばかりか、現在の先端のグループ(中東に計画されているオーバー1,000m越えの3つのタワー)の足元に及ばない高さとなった。

 

 昔からシカゴとNYが世界一の高さを争ってきた。タワーの最上部に鉄塔を建てて高さをごまかす姑息な手段までとっても、このふたつの都市は世界一を争っていた時代。しかし現実は厳しい。財政破綻に限りなく近い米国にとってこの程度に収めるのが精一杯だったのだろうが、「西側で世界一」というが「西欧一」を誇る意味がなくなったいま、世界一を競うグループにはいない。

 

 「力を誇示する」政治も終わり、世界に必要なのはサンデル教授の指摘するように「お金」に頼らず、人間性を取り戻すという、いわば中世からルネサンスへの転換なのではないだろうか。

 

 そだとしたらこのビルは時代に逆行している。数年したらNYの風景に溶け込んで911以前の記憶は失われるかもしれない。それとも再びテロの標的となるのだろうか。誰にもわからない。


 ただし映画「めぐり逢えたら」で最後にトムハンクスとメグライアンが奇跡的に会うことができたエンパイアステートビルのような場所ではないことは確かだ。