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2018年は「ベーシックインカム」制度(統一最低所得又は基礎所得保証)を巡る議論が注目を集めた年であった。しかし、2017年からフィンランドとカナダで制度を実験的に実施してきた2つのプログラムは実施予定期間より早く終了した。ベーシックインカム制度導入による影響や効果の結果を出さないまま両政府は実験の継続を打ち切ったのである。
ベーシックインカム制度は生活保証、失業手当、基礎年金、児童手当、障害者保証などの現給付制度を廃止、雇用や収入、年齢とは関係なく全ての成人市民に無条件で一律に決められた最低所得を給付する制度である。2017年に欧州で初めて制度を実験的に実施したのはフィンランドだが、予定期間より1年早く2018年12月31日に継続を断念した。カナダのオンタリオ州でも3年間のプログラム実施は2019年3月で終了することが決まっている。
ベーシックインカム制度の導入を検討してきた国には共通の特徴がある。それは、今後高い生産性の伸びが期待できない、年金や社会保障の負担が増加傾向にあり、巨額な債務を抱える先進国である。貧困層や格差の減少、一定のセーフティーネットの保障、社会福祉手当の支給システムの単純化による財政コストの削減、将来のロボット化で起きる雇用問題の対応策(この点は特にシリコンバレーのIT企業の間から注目されてきた)などの目的で導入が真剣に検討されてきた。
しかし、フィンランドとカナダでのベーシックインカム制度の実験的な実施が途中で断念された主な理由は、制度を維持するための財政負担が大きく、政府は維持できないことである。保守的な政党は比較的ベーシックインカム制度導入に反対し、リベラル派は導入に積極的な傾向があるが、フィンランドの場合、保守派政権は当初から積極的ではなく、カナダの場合は制度導入から2年目にオンタリオ州政府がリベラル派から保守派に変わり、政策変更により実験プログラムが打ち切られたとされている。
2つの実験プログラムで明らかとなったことは、①政府が財政的に維持できるベーシックインカム制度は国民にとって不十分で、②適切なベーシックインカムが支給できる制度は財政的に政府が維持できないことである。問題点は他にもある。③ベーシックインカムを支給するための財源確保である。また雇用とは関係なく支給されるベーシックインカムの元では雇用を増やすことは難しく、④雇用が減少する傾向が予想される。
究極の社会保障制度と期待されたベーシックインカム制度の理想と現実は大きく隔たり、どのようにして、制度を維持するための雇用を確保、国民からの税金を確保するかが立ちはだかる。社会主義の理念同様、理想の社会制度に収入を託すことが、現実的でないことを学ぶべきではないだろうか。
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