政治色を強める「黄色いベスト」運動

13.12.2018

Photo: sott.net

 

 フランスのマクロン大統領は「黄色いベスト」による政権批判デモの沈静化策として、燃料税増税の中止に続き、10日に最低賃金の引き上げ、残業代やボーナスへの非課税化、毎月の年金額が2千ユーロ(約26万円)未満の年金受給者への社会保証増税の撤回などを発表した。しかし、最新のOdoxa世論調査では59%がマクロン大統領の「譲歩策」を評価しないと答え、54%は抗議デモの継続を支持している。

 

 「黄色いベスト」運動への支持が依然として(マクロン譲歩後でも)高いのは極左派党のLa France Insoumise(服従しないフランス)支持者の92%とマリーヌ・ル・ペン氏率いる極右派党の国民連合支持者の81%である。対照的に既存の政党支持者の大多数は抗議デモを終結すべきと考えている。服従しないフランスのジャン・リュック・メラション党首は第5週目の12月15~16日の週末にも大規模な抗議デモを呼びかけている。

 

 燃料税に端を発し反マクロンの立場で政権に圧力をかけるまでは一致団結した印象の抗議行動は、過激な行動が目立つようになると民衆運動からスタートした「黄色いベスト」運動が変質し、次第に政治色が増してきた。政府への抗議が高級ブテイークの目抜き通りの破壊や観光資源の価値を損なう落書きやバリケードは的がはずれていることを国民は冷静にみている。

 

 見かけ上は国民の不満に屈したマクロンという構図であるが、これらの2つの措置の費用は、公共支出を8~100億ユーロ増加させる。政府の財政負担が大幅に増えることになれば、国民は自らの首を絞めることになりかねない。抗議運動の狙いが主催者側のいう「フランスの富の再分配」に同調しない人々は沈静化を望むので、抗議行動が一枚岩ではなくなる可能性がでてきた中で、議会左派が提案するマクロン政権不信任投票への動きが注目される。

 

財政赤字がEU上限を超える

 マクロン大統領が国民に約束した燃料税増税の廃止と国民へのばら撒き「譲歩策」で、EU安定・成長協定によるフランスの財政赤字上限の対GDP比の3%を大きく超え、3.6%になることが予想される。全てのEU加盟国は単年度の財政赤字額の比率をGDPの3%を上回ってはならない規定に合意しているため、今後、フランスの2019年度予算を巡り、欧州委員会との対立は避けられない状況にある。

 

 さらに、フランス銀行は今回の「黄色いベスト」運動が与えた経済損失の影響で第四4半期のGDPは0.4%から0.2%に減少すると予想をだしており、財政赤字額が3.6%を上回る可能性が大きい。

 

 ドイツのメルケル首相の政治力の弱体化でEUの顔となったマクロン大統領は、フランスの事情で財政健全化を目的に財政規律を求めるEU規定からの例外を求めるのかが注目される。フランスに例外規定が適用されれば、2019年度予算案が却下され、欧州委員会との対立が深刻化しているイタリアも例外措置を与えることを避けられない状況になる。そうなると、自国の事情でEU安定・成長協定を守る規律が弱くなり、EU存続が厳しくなる。フランスの危機は国境を越えて、EU各国に広がる可能性がある。皮肉にもフランス革命のときに周辺の領主たちが恐れて、戦争に発展した状況が再現しようとしている。

 

 

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