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Sub-6Gと呼ぶ6GHz以下の領域の擬似的5Gを5Gとして、詐欺的商法を行うキャリアがある。例えばATTはLTE-Advancedを5Gサービスとしているが、LTE-Advancedは4Gに区分されるべきものである。国内では各社が5Gへの積極的な取り組みをみせているが、各社の5Gネットワーク構築へのロードマップは不透明で、要するに技術課題が多すぎて長期計画が立てられない状況の中で、5Gネットワークが独り歩きしていることに危惧を覚える。
5Gの致命的な欠点
5Gをミリ波(28GHz)と定義するならば、広域通信媒体に使うには致命的な欠点がある。直進性が大きく吸収減衰が大きいために、建物の壁や大気、雨などで減衰してしまい回り込みがきかないため、それこそ無数の送受信機器を設置しなければならないからだ。5Gネットワークは仮にできてもアンテナだらけの街になり、郊外での設置は期待できない。残念だがこの致命的な欠点は周波数に特有の、つまり固有の問題であり、技術開発でなんとかなるものではない。いたるところに小型の送受信システム配置は可能で、無数のスモールセルをリンクしてあたかも広域通信のように見せかけることはできても都市部に限られるだろう。
慎重なドコモも当初はその進化形であるeLTEを維持する戦略で、スタンドアローン5Gと呼ばれる4Gネットワークに依存しない5Gネットワーク構築は最終段階としてとらえ、4Gの広域ネットの傘の中に5G基地局展開を具現化するスモールセルで覆い尽くす構想である。スモールセル間の同期通信には、Facebookの開発した通信ソフトなど、特殊なソフトやアレイアンテナなどの専用送受信機材が必要になり、5Gネットワークの展開は相当長い期間、スポット的な利用に限られる。
国内企業は焦る必要はない
一方でファーウエイが基地局機材や5G端末の販売を急いでおり、それに遅れをとったとして国内に危機感を煽る記事が溢れかえるが、焦る必要は無用だ。つまり5G広域展開には基本的な問題があり、インフラ構築に時間がかかったあげく実用化できない可能性も否定できないからだ。
5Gが4Gから独立するフェーズは最終段階とされるが、明らかに4Gを置き換えることは不可能にもかかわらず、4Gを置き換えるイメージ戦略に無理がある。米国では1万個以上の衛星で広域をカバーしようとする企業も数社出てきたが、たとえ衛星を使っても大気の吸収でミリ波の伝搬特性が改善されるわけではない。
結論をいえば5Gの代名詞とされるミリ波(28GHz)は、原理的に広域通信は適さないない媒体なので、高速大容量通信の意味があるアプリケーションやコンテンツ開発(ユーザーの希望があればの話だが)に時間をかけるべきだと思う。スタンドアローン5GネットワークはIoTで社会を変革するインパクトがあるとされるが、広域ネットワークが実現できての話であり、現時点ではインフラに不安を抱えた不透明なビジョンにすぎない。
破壊的イノベーションとならない理由
5Gの周波数帯はこれまで商業サービスに使われてこなかったことから、健康被害リスクアセスメントが不十分である。それでも、民間主導で「5G=IoTによる産業革命」の名の下に進められている。キャリアや機材メーカーなどIT企業の新規ビジネス開拓の都合が見え隠れする。蛇足だがスマフォ市場は明らかに飽和状態に達していて、折りたたみスマフォや怪しげな5G対応端末を歌ってもスマフォと4Gで新たな価値が生まれたかつての市場の勢いを取り戻せるとは思えない。
同様にIoTの代表であるコネクテッドカーが標準になっても車の販売が増えるとも思えない。要するに過度に期待したIT産業の限界が見えてきたため、突破口としての新たに付加価値を考え出したととれる。4Gとスマフォが連携して働いた結果、クリステンセンの定義する破壊的イノベーションとなったが、破壊的イノベーションになるためには、万人がその登場を歓迎するというヒューマンファクターがあったはずだ。それがない「メーカーに踊らされた」イノベーションでは破壊的にならない。誰でも電磁波による健康被害を避ける権利があるが、スタンドアローン5Gネットワークの中で生活する人々は、「受動喫煙」のように電磁波漬けになる。これを万人が好まない限り破壊的イノベーションにはなり得ない。
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