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炭素排出を大義名分として、欧州諸国で急速な脱化石燃料政策の動きが活発化しているなかで、化石燃料企業の代表格といえるBPのエネルギー予測2019年版が公開された。低炭素未来への迅速な移行の必要性を認めつつ、増大するエネルギー需要との板挟みによって、2040年までの世界のエネルギー市場の不確実性を強調したBPエネルギー予測は、世界が直面している相反する要求の両立というジレンマを浮き彫りにした。
エネルギー政策のジレンマ
世界のエネルギーシステムの急速な変化を認識した上で、より少ない排出量でより多くのエネルギー消費という二重の相反する課題がエネルギー市場の未来課題とあることに焦点を当てている。エネルギー予測はこの課題に対処するには、多様なエネルギー源の共存すなわちエネルギー多様性が不可欠だとしている。その一方で、エネルギー転換がどのように進展するかを予測することは、非常に複雑で不確実性が多いため、エネルギー政策に柔軟性と敏捷性が要求されている。
現在は再生可能エネルギーと天然ガスが一次エネルギーの成長の大部分を占めているのに対して、推奨する移行シナリオでは、新エネルギーの85%が低炭素となる。しかし世界の経済成長を支え、何十億もの人々が低所得から中所得へと移行できるようにするには、もっと多くのエネルギーが必要になる。 国連人間開発指数は、1人当たり最大約100ギガジュール(GJ)のエネルギー消費の増加が、人間開発と福祉の大幅な増加と関連していることを示唆している。
今日、世界の人口の約80%が平均エネルギー消費量が1人当たり100 GJ未満の国に住んでいる。その数を2040年までに総人口の3分の1にまで減らすためには、今日よりも約65%多くのエネルギーが必要になる。これはエネルギー移行シナリオよりも25%多くのエネルギー(2017年の中国全体のエネルギー消費量とほぼ同じ)を必要とする。
急速移行シナリオ
このシナリオは、産業と建物、輸送、電力のための個別の低炭素シナリオによって、現在のレベルと比較して2040年までに炭素排出量が約45%減少する。それでも、パリ合意の脱炭素目標には達しない。
そこで政策面ではエネルギー効率の向上と低炭素燃料への転換の両側面が不可欠となるが、特にエネルギー使用による炭素排出の最大の発生源である電力部門の排出削減が重要になる。そのため今後20年間の炭素排出量の大幅な削減の中心課題となる。
重要な課題は電力部門のほぼ完全な脱炭素化であるため、必然的に天然ガスと再生可能エネルギーの比率が高くなる。発電を補うために水素およびバイオエネルギーを含む、他の形態の低炭素エネルギー源も取りいれる必要がある。さらに循環経済が重要性を増し、炭素貯蔵および除去技術の技術開発が望まれる。
貿易紛争の激化に伴う自由貿易の阻害と貿易減少が世界のGDP、したがってエネルギー需要を減速する。またエネルギー安全保障に対する懸念が高まるにつれ、国内エネルギー生産に傾き、エネルギー貿易が急激に減少する可能性がある。実際、石油とガスの輸出の伸びが著しく減速している。今後20年間で石油需要の伸びが予測される要因は、特にプラスチックの増産に牽引される。石油化学製品の原料として需要は増えるが、プラスチックの使用とリサイクルの管理規制が大幅に厳しくなることが減速要因として働き、石油需要増大が遅くなる。
未来予測が不可能な理由
結局、BPは低炭素未来への移行と増大するエネルギー需要とのジレンマはエネルギー多様性で乗り切ることになるが、それでも2040年までの世界のエネルギー市場の不確実性が顕著になるとしている。自信喪失し予測能力を失ったかのようなBPエネルギー予測2019は、エネルギー経済が世界秩序を支配してきた時代の終わりを象徴している。代替えエネルギーをエネルギー多様性と表現せざるを得なかったのは、未来を担う新エネルギーを定めかねている証拠で、ビジョン無きエネルギー予測にはかつての面影はない。