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ジョージ・ソロスは2018年1月のダボス会議で、権威主義者が民主主義を破壊する独占権を握っているとして、自らが投資しているFacebookやGoogleなどのIT巨大企業に対する攻撃を開始した。現在、ソロスの最大の関心事はインターネット広告収入の半分を支配しているシリコンバレーのIT巨大企業への規制強化である。
ソロスはジョージ・オウエルが小説で描いた全体主義統制と監視社会をもたらすかもしれないと警告し、政府によるこれら2社が独占する事業分野の規制強化を主張した。それを裏ずけるように2月21、ソロスの投資ファンドはFacebookの株式を売却した。投資による育成支援から転じてIT巨大企業を「脅威」として攻撃の対象とした理由は何か。
ソロスによれば、FacebookとGoogleは単なる情報の流通業者であり、現状の独占をやめさせて公益事業にし、競争、革新、公平でオープンな普遍的なアクセスを目指して、より厳格な規制を受けるべきであるとしている。ソロスは、IT巨大企業が中国のような主要市場を独占し、IT独占企業が営業活動のために独裁国家と提携するために妥協する恐れがあると考えている。その背景にあるのは全体主義への強い警戒心は好意的にとられがちだが、それは一般市民の自由な発言プラットフォームへの警戒心でもある。
今年のダボスで開催された影響力のある世界経済フォーラムでは、ソロスはFacebookとアルファベットの所有するGoogleを「脅威」として選んだ。ソロスの懸念は、巨大IT企業が「管理している個人情報を悪用する」ことと、これを行うための「差別的価格設定」に集約される。ソロスは、①規制強化と②効率的な課税がインターネットの巨人の最終的な終焉につながると考えているが、まさにEUの個人情報保護の規制とフランス、オーストリアが先導するデジタル課税の法的措置はこれらに該当する。
ソロスの批判に同調するかのようなEUの規制強化とデジタル課税は米国のインターネット企業の世界的な支配への挑戦ともとれる。こうしたIT巨大企業が独裁国の指導者と手を結んで、その国の監視社会化と体制維持に協力することを阻止することは、聞こえはいいが諸刃の刃の側面がある。巨大企業の税金逃れや独裁国家による情報統制はどちらも批判されるべきだが、それを大義名分とした行き過ぎたネット規制は個人の発言の自由を奪うことになる。結果的に自由な発言ができなくなれば逆に監視社会や独裁国家につながっていくだろう。
これまでのところEU当局は、Facebook、Twitter、Google 3社はコンテンツの削除または契約の終了をユーザーに通知する方法について部分的にしか対処していないとして、罰金を辞さない構えである。Facebookは、EUの当局と協力して、規約を変更し、透明性を高めていると述べたがGoogleスポークスマンはコメントを拒否、Twitterもコメントの要請に応じていない。
今後IT巨大企業は自動運転車や人工知能といった成長分野を支配するための戦略を繰り広げることで、ますます監視社会、独裁体制との関係性が深まる懸念がある。しかし10億ドルで購入したマウンテンビューに本拠を置くGoogleはLinkedInの本部を所有するテクノロジーパークを購入するなど、破竹の勢いは止まらない。
全体主義や監視社会に反対するソロスの言動は表面的にはポピュリストの共感を得るかもしれない。しかしその真意が移民を支援し国家という概念を消し去る「国境なき世界」だとしたらどうだろうか。結局、IT巨大企業の危険性を回避するのは規制だけではなく、ユーザーが危機意識を持つことが必要だということになるだろう。ソロスにも制御が効かなくなったGAFAを止めることができるのはユーザーしかない。
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