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中国南部の深セン市は、40年前から中国が展開している近代化政策「改革開放政策」でファーウエイ、ZTEなど中国勢大手のほか、アップル製造代行の鴻海精密工業やサムスンなど、国内外の大手ハイテク企業が拠点を集中した。上海についで中国第3の都市に登りつめた深セン市は中国経済成長のお手本とされる一方、最近は環境問題が浮上し、「中国製造2015年」を巡り米国との貿易戦争が勃発するなど影の部分が表面化した。
香港との国境に近いのどかな田園地帯にあった人口3,000人の小都市は、鄧小平改革で1980年に初めての特別経済区に指定されると、「農地を工場に変える」中国近代化路線を突き進む。
1,400万人の人口の未来都市となった深セン市は世界の半導体産業中心に成長し、今日では、アップルとサムスンを含む外国企業向けの電子機器、PC、携帯電話の生産工場のほか通信会社ファーウエイやインターネット大手のテンセントなどの中国独自のグローバル企業が深センに本社を置き、数万の工場が集まる深セン市は「シリコンバレー・オブ・ハードウェア」(注1)と呼ばれている。
(注1)ハードウエアをつけて呼ばれる理由は、電子機器やソフトウエアのみではなく、「中国製造2025年」に向けて機械産業セクタも取り込んで成長を続けているから。
電子産業からハイテク産業中心へ
深セン市はまた、ロボット工学、電気自動車、人工知能などの主要なハイテク産業を支配する「中国製造2025年」計画に沿って、その本拠地として再構築しようとしている。経済特区で起業しやすい環境に、豊富な資金力と世界中から集まる労働力が結びついた結果、開発能力において本家シリコンバレーに匹敵する未来都市が生まれたのは自然な流れといえるだろう。関連企業が集中したことで、相乗的に開発能力が高まり、新規ビジネスの機会に恵まれた深セン市は、シリコンバレーをしのぐ世界の製造拠点となるとみられる。しかしここに来て、高度成長の歪みによる環境問題や、米中貿易戦争の勃発で世界の工場としての中国を象徴する未来都市にも陰りが見えている。
深セン経済にも及んだ2015年金融危機
2015年金融危機は成長街道を驀進する中国経済にとって将来を暗示する年となった。中国の株式市場は、2007年以来の最大となる下げ幅で急落した。上海総合指数は8.5%低下し、日本、香港、米国の市場も影響を免れなかった。中国政府は6月中旬に急上昇した後に暴落した上海と深セン(下図)の不安定な株式市場を支えるために、大規模な介入を行った。
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政府は銀行や他の金融機関が投資家への貸付を増やし、公募を凍結し、金利を引き下げ、国有企業と株式を買い取るための資金を注入し、株式売買を規制した。当座はおさまったようにみえたが、中国経済の意外な脆弱性は上海経済と連動した深セン経済も例外ではないことが明らかになった。最近のiPhone XRの減産やファーウエイの国外展開の規制強化で、スマートフォン部材メーカーの生産減速は深セン経済にも影響しつつある。
未来都市の影~安全保障問題と環境リスク
最近、中国のハイテク企業の米国や他の西側諸国で安全保障やスパイ活動の疑惑が浮上した。ファーウェイの端末や通信機器が西側諸国での採用を拒否され、イランの制裁違反容疑で幹部が拘束されるなど、国際的な安全保障リスクが表面化している。ファーウエイ、ZTEに端を発する安全保障問題は、通信部門で世界的な中国離れの潮流を起こし深セン市にも影響を及ぼすこととなった。
それだけではない。深センの工業団地では、2015年12月に泥や建設廃棄物の山が崩壊し、33の建物が土砂に飲み込まれ、約100人が行方不明になった(下の写真)。地方政府は敷地内の泥や廃棄物の量が膨大で、急な積み過ぎで不安定になり崩壊の原因となって建物が倒壊する恐れがあることを認めた。しかしこれは氷山の一角で市内の地下鉄工事で、掘り起こされた大量の残土が投棄され続けている。
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積み上げられた残土のリスクは全国的に広がっている。深セン市では合法的な12箇所の産廃施設が飽和したため、違法投棄による環境汚染も引き起こしている。「世界の工場」となった深セン市は、中国の成長を象徴する未来都市であると同時に汚染都市となった。直接的な責任は無理な成長政策にあるだろうが、「中国を世界の工場」と考えたグローバリストたちの過失も少なくない。
一言で深セン市を表現すれば、20世紀に流行った「電脳都市」がぴったりくる。60歳以上の人口が5%という若い世代が集められて、活気に溢れた「電脳都市」はどこか不自然だ。砂漠の中につくられたドバイのように、人為的に農地につくられた計画都市の持つ不自然さが同居する「電脳都市」の持続性は未知数だ。