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米国の同盟国であるイスラエルは、米国海軍と共同で長年にわたり軍事演習を行ってきた。その際の拠点で定期的に米軍艦船が寄港していた、イスラエル第2のハイファ港が2021年から中国企業の運営下に置かれる。ロシアはフロリダ州のフロリダキーズからわずか1,350マイル離れたカリブ海の島に超音速戦略爆撃機の Tu-160を南米で初めて配備する計画をベネズエラ政府と合意した。この2つの動きによって、米国は安全保障面で軍事戦略の見直しに追い込まれている。
運営権の貸し出しの見直し
ハイファ港の運営権の貸し出し問題は米国だけでなく、潜水艦隊の拠点となっている海軍基地が近くにあるイスラエルにとっても、安全保障面でも問題である。事の発端は2015年にイスラエルの交通省が港の運営権の長期貸出契約である。ハイファ港を中国政府が株式を過半数保有する上海国際港務グループ(SIPG)に、2021年から25年間貸し出す見返りに、港の拡張工事にSIPGは20億ドルを投資することで合意した。表面的には民間投資にみえるが国営企業は中国共産党の支配下にある。
新規インフラ建設で中国側が情報・監視システムを導入すれば、米海軍の動きの監視や情報流失のリスクが発生する可能性は避けられない。米軍はハイファ港の使用を断念する状況に追い込まれることになる。イスラエルは米イスラエルの同盟関係や自国の安全保障リスクより、投資による経済効果を重視した形だが、中国の国際的影響力の拡大も背景にある。米・イスラエル両軍からの安全保障上の懸念を受け、イスラエル政府は見直しを始めた。
ロシアの南米での勢力拡大
米国の南米における影響力の低下やベネズエラとの関係悪化を利用して、ロシアは同地域での勢力拡大に動いている。経済的支援、軍事的な協力関係や武器売買の拡大を進めている。
中でも、ベネズエラの首都であるカラカスから北部200キロ、カリブ海のラ・オルチア島にあるベネズエラの陸軍・空軍基地にロシアの超音速戦略爆撃機の Tu-160機を配備することに両国が合意した。将来的には、ロシアは南米での軍事基地の建設を検討しており、今回は南米軍事進出の第一歩となる。だが、フロリダ州のフロリダキーズからわずか1,350マイル離れたラ・オルチア島にTu-160機が配備されることは、キューバ危機以来の米国にとって深刻な軍事脅威となる。
Tu-160は米空軍のB-1B爆撃機と酷似した可変翼超音速戦略爆撃機であるが、機体寸法がより大きく、搭載量もB-1Bの34トンをしのぐ40トンとなり、航続距離も16%上回る。最大の特徴はB-1Bの最大速度がマッハ1.25なのに対して、2倍近いマッハ2.2であることと、核巡航ミサイル12発積載できることで、明らかにB-1Bよりも攻撃力の高いため、米国にとっては厄介な存在になる。
ベネズエラに配備されたのは2機であるが、核巡航ミサイル24発の存在は米国の安全保障を脅かす存在である。またプーチン大統領はロシア軍の近代化の一環として改良型のTu-160M2を50機配備する。新たな2大軍事強国が南米で対峙することで、新たな東西冷戦時代が幕をあける。今後、米国は一帯一路の実態である海軍の世界展開戦略と対ロシア軍事力バランスの変化の両方に対応しなければならなくなる。