MITが提案する再生可能エネルギー貯蔵

07.12.2018

Credit: MIT

 

MITの研究チームは、太陽光や風力などの再生可能エネルギーを貯蔵し、そのエネルギーを必要に応じて電力網に送り返すシステムの概念を提案した。このシステムにより、太陽光発電が稼働する日中や、風力発電に十分な風が強いときだけでなく、24時間いつでも電力を供給するようになれば、再生可能エネルギーを主電源とすることができると期待される。

 

コンセプト自身は古い蓄熱方式

このシステムは従来の蓄電池方式ではなく、太陽熱や風力による余剰電力によって発生した熱を、溶融シリコンの大型タンクに蓄え、必要に応じて電気に変換する蓄熱方式である。研究チームはLiイオン電池やレドックスフロー電池よりも低コストで水力発電の半分のコストとしている。

新しい熱ストレージシステムは、集中型太陽光発電プロジェクトから生まれたもので、集中型ソーラーパワーは、セントラルタワーに太陽光を集中させて熱を電力に変換する。重要なことは、熱でエネルギーを貯蔵する法が、蓄電よりも低コストになる、という点である。

 

太陽光を集めてその熱エネルギーを、溶融塩で満たされた大型のタンクに蓄え、電力が必要な場合、熱い塩は熱交換器で熱を蒸気に変換して、タービンで電気に変換する技術は以前からある。既存技術の組み合わせで新鮮味のない溶融塩蓄熱方式はエネルギー損失が少なく、開発要素が少ないため低コストで信頼性の高いシステムを短期間で整備することができる反面、高温原子炉と同じように高温の溶融塩を貯蔵するステンレス鋼タンクの腐食である。MITの研究チームは、塩以外の媒体を探し溶融シリコンを採用した。

 

昨年、研究チームは、高温に耐えられるポンプを開発し、液体シリコンを再生可能なストレージシステムに送り込むことに成功した。このポンプは耐熱性に優れ「世界記録のギネスブック」に記載された。

 

実用性の高いTEGS-MPV

研究チームは熱エネルギーグリッドストレージ-マルチジャンクション太陽電池(TEGS-MPV)と呼ぶ新しい再生可能エネルギー貯蔵システム(Amy et al., Energy & Envir. Scienc, online Dec. 07, 2018)を完成した。太陽熱や風などの再生可能エネルギー(電力)を熱エネルギーに変換する方式は一見無駄なようだが貯蔵コストに優れている。このシステムは、太陽電池などの既存の再生可能エネルギーシステムと組み合わせて、昼間の余分な電力を回収し、後で使用するために保管することができる。

 

液体シリコンで満たされたグラファイト製の「コールドタンク」は「ホットタンク」に接続されている。液体シリコンは、コールドタンクからポンプでホットタンクに送られ再生可能エネルギーから変換された熱エネルギーで加熱される。

 

電気が必要になると、高温のシリコンからタービンで電力としてエネルギーを取り出し送電網に供給する。冷却されたシリコンはコールドタンクにポンプで戻される。

 

高温ではシリコンがグラファイトと反応してSiCを生成し、タンクを腐食する可能性があるという懸念は、SiCが薄い保護膜をつくるため問題にならない。タンクの壁はグラフォイルをシーラントとして漏れを防ぐことができる。単一のストレージシステムにより、人口約10万の小規模都市が再生可能エネルギーによって完全に電力供給されることが可能になる。

 

再生可能エネルギー比率100%

人口10万人ごとのブロックに分けた分散エネルギー貯蔵によって、大都市でも再生可能エネルギー100%の送電網が実現できる時代が訪れようとしている。再生可能エネルギー比率100%の壁は設備投資と電力貯蔵に尽きるが、後者を熱エネルギー貯蔵に置き換えて低コスト化ができたなら、ベース電源の議論で消え去らない原子力発電やスター形式の大型発電所の考え方の陳腐化はまぬがれない。

「集中から分散」の流れがクリーンエネルギー化に寄与することになりそうだが、地味な蓄熱技術が最先端技術に衣替えするのはなんとも興味深い。