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地球の長い地質学的歴史のなかで、磁極は安定しているとはいえない。地球の磁場は突然に(予兆なく)弱くなったり、磁極が完全に逆転することさえある「いつおこるかわからない」カタストロフイックな事象なのである。岩石の古磁気の解析によれば、地球の磁極は、過去数百万年の間に、磁極反転は数100回もあった。磁極のエクスカーションと呼ばれる不安定状態では地球の磁場は弱まり、ドリフトするが最終的に極は最初の位置に戻る。
「地球の磁場は安定していない」証拠は、特定の岩石が地球の現在の磁場とは向きが違った磁化を示すことである。1960年代に、溶岩流と堆積物の両方にについて磁極逆転プロセスが明らかされなってきた。岩石が形成されたときに磁化される過程は単純ではない。火成岩は冷却される時に、そのときの地球磁場の方向に磁化された。このプロセスは数日から数年かかることがあり、地球の磁場の「スナップショット」を与える。その結果、異なる地質時代に形成された多くの異なる岩石を研究することによって、地球磁気の歴史(古磁気)を調べることができるようになった(下図)。
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数千年の地球の地磁気履歴が刻まれたオレゴン州南東部スティーンズ山の玄武岩溶岩流(中世紀)には、1550万年前に急激に(1日あたり3~8度)で起こった磁化反転の証拠がある。しかし火山の岩石だけではなく、地球の地磁気履歴を理解するためには、北大西洋の深海コアにみられる連続した磁化層のような堆積物のデータも必要になる。
磁気反転は以前に推測されていたよりも頻繁に起きていた。77万年前に起こった最後の磁極逆転は、100年以下の期間という(地球史的には)急激な反転であったことがわかっている。磁極逆転の原因について多くの理論が提唱されているが、磁極逆転は地球の外側のコアの対流運動、熱対流、放射壊変に関係すると考えられている。地球の磁場が外側コアの金属流体の動きから生じるダイナモ原理で発生するメカニズムを前提として、地球外天体との衝突で導入されたマグネシウムに着目した新学説が登場した。
地球磁場に新学説登場
複雑な地球磁場の発生メカニズムに挑戦しているカリフォルニア州工科大学の研究チームは、地球外天体が運んできたマグネシウムの存在が、磁場が発生した原因と現在も磁場を維持している理由を説明できると考えている(O-Rourke and Stevenson, Nature 529, 387, 2016)。
これまで地球の磁場は、外側コアの対流運動、熱対流、放射壊変で放出されるエネルギーによって生成すると考えられてきた。しかしこのモデルの最大の欠点は鉄の熱伝導率が高く熱流束が大きいため、熱対流、放射壊変のエネルギー放出だけではダイナモ効果が持続できないことである。これに対して約3.4~42億年前に他の原始惑星との衝突によってコアに導入されたマグネシウムに起因するメカニズムでは現在まで持続しているダイナモ効果を説明できる。
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外部から導入されたマグネシウムは地球コアの1-2%で、コア内部とマントルの境界までゆっくりと沈殿したと考えられる。その際に高密度のままの鉄はエネルギーを放出することでダイナモ電流を発生させ、内側のコアからの軽元素放出で対流が起きる。つまりコアからのマグネシウム含有鉱物の析出がダイナモ効果の代替エネルギーとなるというメカニズムである。
地球磁場の発生メカニズムは解明が少しずつ進んでいるので、磁極逆転のきっかけとなる要因も絞り込めると期待される。過去2000万年の磁極逆転が20-30万年ごとに起きていた事実や南半球における地磁気逆転の兆候からすれば「いつ起きても不思議ではない」磁極逆転を予測して警告をだせる時が来るかもしれないが、それにはまだ研究を積み重ねる必要がある。磁極逆転が起こればもちろん被害は想像を絶する。それは真実なのだが、ネット上の意見は「いつ起きるのか」という万人の疑問に対しては、「いま起きつつある」とする警告と、「全く考えるに値しない」とする否定派に分かれる。
地磁気逆転は巨大地震と同じだが、「いつ起きても不思議ではない=いつおきるかわからない」現状は同じなのに、現実味に関しては大きな差がある。現在観測されている地球磁場の変動は、公平に見て「すぐに逆転につながるほど大きなものではない」とする考えが大勢を占めるのではないだろうか。しかし、「いつ起きても不思議ではない」という注釈がない楽天論は不気味だ。そもそも筆者が編集を担当する学術雑誌でも、ダイナモ理論やMHD発電の論文の査読者をみつけるのは至難で、専門家が少数でコミュニテイが閉ざされていることにも問題があるのではないかと思う。地球磁気問題はコミュニテイを広げれば新しい研究手法もみつかるし、計算機シミュレーションの精度も向上していくだろう。「いつ起きても不思議ではない」からこそ危機感を持つべきなのではないだろうか。