Credit: Nature
インテル社とカリフォルニア大学バークレー校の研究チームは、現在のトランジスタ技術を超えて、地球上のすべてのコンピュータに応用できる新しいタイプのメモリとロジック回路の開発を進めている。このスピントロニクスデバイスは、スイッチングに強相関酸化物とトポロジカル絶縁体の磁気スイッチングで、CMOS技術と比較して優れたスイッチングエネルギー(10~30倍)、低いスイッチング電圧(5倍)ロジック密度(5倍)を実現する(Manipatruni et al., Nature online Dec. 03, 2018)。
研究チームが提案するスピントロニクスデバイス(磁気電気スピン軌道またはMESOデバイス)は、ムーアの法則のCMOS限界を超え、CMOSと同じ空間に5倍以上の高密度で論理演算が可能になる。またMESOデバイスは、消費電力の少ない強力なコンピューティングパワーを実現する。
70年前に発明されたトランジスタ技術は、今日、携帯電話や電化製品から自動車やスーパーコンピュータまであらゆるものに使用されている。トランジスタデバイスは、2進ビット0および1としてそれらを記憶し、演算する。一方、MESOデバイスでは、バイナリビットは、マルチフェロイックの上下磁化スピン状態、電圧を印加してマルチフェロイックの磁気秩序を変える原理に基づいている。
研究チームはマルチフェロイックの磁気電気スイッチングに必要な電圧を3ボルトから500ミリボルトに下げることに成功したが、さらに100ミリボルトまで低くできると予測している。MESOデバイスはCMOSトランジスタで消費される電力の1/5から1/10の省電力ロジックとなる。
マルチフェロイクス材料は多様な物性を有する特異な物質で、例えば鉄原子の磁気モーメントが整列して強磁性体としてや、原子の正と負の電荷がつくる電気双極子で強誘電体材料として振舞う。
MESOデバイスは、ビスマス、鉄および酸素(BiFeO3)からなるマルチフェロイック材料をベースにしており、これは強磁性および強誘電性の両方の特性を発現するが、ふたつの状態が結合しているため、一方を変更すると他方に影響を与えるため、電場を制御することで、MESOに不可欠な磁気状態を変えることができる(下図)。
Credit: Nature
ビッグデータ解析やAI、IoTの進展でエネルギー効率の高いコンピュータの必要性が高まっている。米国にとってコンピュータチップを製造技術でリードを保つには新デバイス開発は不可欠であり、これが」中国が技術盗用でこの分野の先端に立とうとする製造2015に是が非でも先んじなければならないと考えている理由である。MESOデバイスはまさしく、米国(インテル)がアカデミアとともにポストCMOSロジックに向けて前進するための切り札と言える。