サウジアラビアによる隣国イエメンの空爆(3月26日)は、世界最大の油田があるアラビア半島でのサウジアラビアとイランの代理戦争に発展する恐れがある。今後の中東の将来と世界への影響は、イエメンでの情勢によって大きく変わることになる。
ディサイシブ・ストーム作戦
今回のイエメン空爆は、イスラム教スンニ派諸国のサウジアラビアを含む、ヨルダン、エジプト、モロッコ、クウェイト、バーレーン、カタール、UAE、パキスタン、スーダンの10カ国による連合で、「ディサイシブ・ストーム作戦」として展開されている。それに対し、イエメンの反対制派を支援している国は、イラン、シリア、レバノンとイラク。もちろん、イランの後ろ盾となっているのは、ロシアと中国である。
空爆はサウジアラビア主導で、イエメンでの反体制派のイスラム教シーア派の武装勢力フーシ(注)の拡大を止めるための軍事拠点の空爆であった。また、サウジアラビアと米国が後ろ盾となっているスンニ派のハディ大統領の政権拠点となっているアデンの防衛のため、サウジアラビアは15万人の地上部隊を国境近くに派遣、地上攻撃に踏み切る姿勢を示している。
(注)イエメン北部のサウジアラビア国境付近で活動するフーシー部族のアブドウルマリク・フーシーが率いる武装勢力。イエメン政府軍とたびたび衝突している他、北部スンニ派部族とも衝突を繰り返して来た。北部に勢力を持ち南部の「南部運動」と勢力を争うが、双方とも政府から分離独立を掲げハーデイ政権の転覆を目指した。ハーデイ政権は転覆しハーデイはサウジアラビアに亡命した。(公安調査庁国際テロリズム要覧)
アデンは地政学上重要な地域である。なぜならば、アデン湾と繋がっているバブ・エル・マンデブ海峡(上の地図参照)は、紅海の南部に位置しており、ヨーロッパ、湾岸諸国とアジアの重要な海上での原油輸送チョークポイントであるからである。
アメリカエネルギー省によると、2013年には、世界の原油生産の3.8%がバブ・エル・マンデブ海峡を通っており、原油輸送チョークポイント(注)として世界4位である。そのためバブ・エル・マンデブ海峡の武装勢力フーシによる封鎖を避けるため、サウジアラビアとエジプトは艦艇を派遣している。
(注)産油国から消費国への原油輸送はオイルロードと呼ばれるが、そのルートには狭く浅瀬の難所がいくつかあり、その安全な通行がしばしば妨げられるため、ネックとなる海峡をチョークポイントと呼ぶ。(JPECレポート)
地政学的脅威
サウジアラビアは隣国にイランの「代理国家」の設立を容認することはできない。地政治学上、特に深刻に受け止めている理由は、今ではイランの影響が強いイラクを北に、南にイエメンと2つのシーア派国家に挟まれることである。
ここ数年間、中東でのイランの影響力は増している。レバノンでは、イランの後ろ盾があるイスラム教シーア派の武装組織ヒズボラ、シリアでは、アサド政権を支援する武装組織、イラクでは、シーア派政権とイラン派民兵組織が勢力の拡大を続けている。イエメンでの空爆は、中東でのイランの勢力拡大の脅威に対するサウジアラビアの勢力均等を変えようとする動きとして捉えられる。
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