日本の発電量の30%近くを占めて来た原子力。311以降の原発停止による電力危機を救ったのは火力である。30%もの発電が混乱ないまま火力へスイッチできたことは立派だが、その代償として燃料購入費は年間3.6兆円にもおよび、貿易赤字に貢献することとなった。結果的にエネルギー資源の中東依存度が高まり、中東情勢の悪化で国のエネルギー安全保障のリスクが脅威となっている。
中東(特にサウジアラビア)からの原油は大型タンカーで搬送されるが、この海上輸送には危険な関所を通ることを余儀なくされる。イランに面したホルムズ海峡(上の衛星写真)である。日本へは主に20万トンクラスの大型タンカー(VLCC, Very Large Crude Oil Carrier)で運ばれるが、タンカー全体の80%にあたる3400隻が毎日のように狭い海峡を通る。VLCC輸送の様子は出光石油のサイトに詳しく説明されている。
中東各国(イラン、イラク、サウジアラビア、クエート、アラブ首長国連邦、オマーン)への海からのアクセスがホルムズ海峡に委ねられている。このための日本の中東原油輸入のリスクは潜在的なものだったが、さらなる脅威にさらされることになった。
ひとつはイランによる海上封鎖の可能性である。イラン核開発の6カ国交渉がまとまらないことで、イラン制裁が強まり報復としてのホルムズ海峡封鎖が現実味を帯びて来た。もし封鎖となれば火力発電の大半が消えることになり、原発停止と比較にならないエネルギー危機を迎える。
中東諸国のなかにもホルムズ海峡が原油輸出の要衝でイランの影響下にあることに懸念を示す国もある。アラブ首長国連邦はホルムズ海峡迂回を目指してアブダビ油田とインド洋を直接接続する全長370kmのパイプラインを建設した。これによってアブダビ油田の150万バレル/日は安全にインド洋に面した港に届けられる。
ホルムズ海峡(上)を通過したVLCCはインド洋を横切るとマラッカ海峡を通って南シナ海にでる。オイルロードと呼ばれる12,000kmに及ぶ輸入ルートに問題が起こり、(備蓄が無くなる200日間に解決しなければ)日本のエネルギー供給が停止することになる。
311原発事故で放射能汚染のリスクが現実となったが、原油と天然ガスへの依存度を下げることはエネルギー安全保障上優先される課題であった。先進国中で(フランスを除けば)原子力への異常な執着には、安全保障上のリスク回避があったのである。
311以降、再生可能エネルギーの伸びも大きく、すでに認可された売電事業者が営業を始めれば20%は担うことができる。再生可能エネルギーで30%、現在は80%を越えている火力を温室ガス排出規制をクリアする限界の50%以下とし、原子力を(継続する国民の理解が得られれば)20%上限(注)とするエネルギーミックスを早期に実現するのが現実的なシナリオとなってきた。
(注)経済同友会は20%を下限とする提言をまとめているが、ここは上限を規定すべきである。先進国としては10%に抑えたいところだ。
我々が何気なく使う電気、郊外では車がライフライン、毎日何も考えないで電気やガソリンを使っているが、そんな生活を支えているのがVLCCである。オイルロードに関わって来た人にはご苦労様といいたいところだが、将来のエネルギー安全保障とベストエネルギーミックスを考えるべき時が来た。