シェールオイル増産によって原油価格下落がもたらされた。しかしシェールオイル掘削事業の採算性の悪さとリスクの高さは、相次ぐ日本企業の投資失敗や稼働リグ総数の減少をみれば明らかだ。
2014年秋から始まった原油下落は2015年2月にはようやく底値をうち高値に転じた結果、ガソリン価格も連動して2-3月に上昇した。しかし2014年夏までの価格上昇傾向の復活とみるのは早すぎる。シェールオイル生産量はこれまでリグ数の減少がみられるものの、生産量の減少に結びついていないからだ。原油価格下落に対抗して採算性を確保できる企業がより強くなり、採算性の低い企業が市場から退くという「淘汰」が強まっている。
一方でメジャーの悩みはこれまで北海原油の生産拠点であった英国領の油田の多くが老朽化し、採算性が悪くなり売却が急がれているが「売れない」ことである。世界最大の洋上油田火災で知られるPiper-Alpha(写真)では、1988年に火災で167名の犠牲者を出したが、老朽化すれば事故リスクや稼働コストが上がる。
米投資銀行エバーコアパートナーズによれば、北海油田の売却したい資産総額は3兆5000億円にも上る。北海油田のリグ老朽化で掘削コストは26%上昇したが、追い打ちをかけるように昨年末の原油価格下落は36%に及んだ。米国の国策で増産したシェールオイルは世界中の採算性の悪い原油掘削事業を直撃した。
1970年から稼働した北海油田はかつて英国の原油生産の10%を占めたが、掘削コスト上昇で近年の北海油田への開発投資を鈍らせたことでリグの近代化が遅れた。北海油田の投資が減った事に加えてスコットランド独立問題は英国政権に打撃を与えた。こうした背景のもとロイヤルダッチシェルは、売却が進まない旧式の油田に見切りを付け、巨大リグで未開発のシェールオイル掘削に参入する。
シェルの計画する巨大洋上リグは"Shell Perdido"と呼ばれる。
Perdidoはメキシコ湾に設置され、掘削海底は2,450mでシェールオイル掘削用の世界最大の掘削基地である。生産量は100kバレル/日で、その利権はShell、Chevron、BPがほぼ1/3ずつ所有する。
シェールオイルは岩盤が地面から2000-3000mの深層にあるため、垂直に掘削し横穴を掘るが、3000mの水深での掘削となる。Noble Clyde Boudreaux のリグが使われ、発電機で巨大ドリルを回転させて掘削する。シェールオイル掘削は水深が深いため、新たにPerdidoでは22基の油田間ネットワークをつくり陸上へのパイプラインは既存のものを使う。
売却の見込みが立たない老朽化したリグを閉鎖し、巨大洋上リグで新たにシェールオイルの採算性を上げる戦略にでた。原油掘削の膨大なノウハウと資金力にものをいわせるメジャーならではのものである。これに対して米国のシェールオイル掘削企業はどのように立ち向かうのだろうか。またOPEC、非OPECの原油生産国はどのような採算性向上の手を打つのか。シェールオイル増産で原油市場の潮流に変化の兆しがみえている。