傭兵ときくと2度も映画化された映画「外人部隊」が頭に浮かぶ人は多い。フランス外人部隊はしかしれっきとしたフランス陸軍の外人志願兵で構成される「正規軍」である。ここで紹介する傭兵やその会社組織である民間軍事会社も退役軍人から各国の流れ者たちまで様々な戦争プロフェッショナルたちの集団である。
一般的な傭兵(Mercenary)は戦争請け負い人であり、戦死しても戦死者とれない。国際法上は正規軍とみなされない。しかしながら大戦後の紛争や大国の代理戦争を背景として強力な民間軍事会社が勢力を伸ばし、制服なき主力部隊として戦闘に参加するまでになった。とりわけ1980年代に誕生した大規模なPMSCは2000年代の対テロ戦争で急激な成長を遂げた。
近代的な会社組織PMSCの誕生
PMSC(Private Military and Security Company)の草分け的存在はエクゼクテイブアウトカムズ(Executive Outcomes)社で南アフリカ共和国に誕生しアンゴラ内戦、シェラレオネ内戦に投入され内戦を集結するなど成果を挙げ、後にアメリカでつくられた多くのPMSCのモデルとなった。
さしづめサンデル教授なら「貴方はそれをお金で買いますか」と問いかけるであろう。アウトソーシング全盛の時代、建前よりコスト重視の時代の象徴といえるPMSCは賛否両論であるが、平和を謳歌する日本ではその実態と影響力について知る人は少ない。
表面的には民間警備会社のイメージで戦争からほど遠いようにみせかけて実際には強力な軍備を持つ正規軍なみの巨大企業がアメリカの戦争を請け負ってきた。アフガニスタンでは有名な「ブラックウオーターUSA」が暗躍して成果を挙げたが、同時に民間人を巻き込む等の不祥事も起こしたことは記憶に新しい。
ブラックウオーターUSA
ブラックウオーターUSA(現在はAcademi)は1997年にNavy SEALs退役エリックプリンスによってつくられたPMSCでアフガニスタン侵攻に投入され、基地警護や軍事コンサルテイングの契約により急成長を遂げた。政府との太いパイプで契約を独占、最盛期は4万人の人員をイラク戦争時に投入した。ブラックウオーターUSAの特徴は白人(アメリカ人)を採用し、最新鋭の武器と軍事スキルを身につけた部隊であることだ。
装備も重火器の他にヘリコプターや輸送機も保有し世界的な紛争に駆けつける能力を持つ一方で、市民を巻き添えにするなど問題を起こしたことでも有名である。現在はAcademiという社名にもある軍事技術のコンサルテイングと訓練を行なう会社のイメージになったが会社の本質である戦争請け負い業務はもとのままである。
傭兵についてはジュネーブ条約で規定されているがPMSCは傭兵には分類されない。PMSCの装備は陸軍の標準装備にひけをとらないが、戦争に直接参加するが相手方の正規軍とは戦わない。任務としては警護、戦争アドバイザー、後方支援など様々である。
ネルソンマンデラがエクゼクテイブアウトカムズを解散に追い込んだ話は有名だが多くのPMSCは解散や分社化を余儀なくされると、鉱山ビジネスやオイルビジネスの傭兵となって生きながらえた。白人の採用が多いPMSCは搾取する西欧の傭兵となった。
サウジアラビアがシリアのアサド政権の転覆を図って送り込んだ傭兵は死刑囚たちだった。傭兵に囚人を使うのは珍しいものではない。武器や資金を援助して戦争に向かわせる銀行家の暗躍と戦争を傭兵の代理で戦う時代。「貴方はそれをお金で買いますか」は事実である。
写真はAcademiの輸送機。専用輸送機で世界中の国へ戦争プロフェッショナルを自社の輸送機で派遣する。