王国の素顔−Part1 サウジアラビア

Jan. 4, 2014

 

 

 世界的な原油価格の下落の一因となったOPEC減産見送りで、シェールオイル、ロシアそして同業者たち(ベネズエラなどの産油国)に、大打撃を加えて石油産業に一石を投じたサウジアラビアとは一体どんな国なのだろうか。

 


サウジアラビアの特異性

 サウジアラビアはイスラム国家でも親米で通っている。サウジアラビアは米国軍需産業のお得意だし、中東でも際立つ米国との友好関係は原油取引の仕組み(ペトロドル制度)と表裏一体である。世界一といわれた原油埋蔵量(注)に任せて、原油をアメリカをはじめ世界中に輸出してきた。政治的首都はリヤドだが、イスラム世界の首都ともいえるメッカを要することで、宗教的にも中東への影響力の大きい国である。

 

(注)現在は世界第1位をベネズエラに譲っている。


 

血塗られた王位継承

 アブドラ国王が収める人口3,000万人弱の王国の王制は18世紀に遡り、紆余曲折を経た後に現在の王国は20世紀初頭に建国されたものである。20世紀初めは石油開発が始っていたが、世界大戦で中断し本格的な採掘は戦後に開始され、大型油田の発見でサウジアラビアに経済的繁栄をもたらした。


 しかし王制の歴史は親族間の血みどろの戦いでもあり、王位を継いだものの経済的、政治的手腕のなさで失脚したり、親族間での争いに勝利して直系でないにもかかわらず王位を継いだファイサル国王も1973年の第4次中東戦争の後、石油政策を誤って石油危機を引き起こした。


 ファイサル国王は親族によって暗殺されたがその後も親族間の抗争は続くことになる。1990年の湾岸戦争で米国に基地を貸して協力するなど、親米路線を強めた王家はイスラム教徒の反感を買った。その中には後にテロに走るウサマビンラーデインがいたとされる。


 現在のアブドラ国王の即位は2005年である。ファイサル国王を暗殺した王子(甥)の後王位を継承したハーリドも、その後のファハドも、アブドラも異母、同母の弟であった。王家によくある兄弟間の争いで王位を継承したり奪い取る繰り返しの歴史であったため、アブドラの王位を誰が継承するかは王国の運命を分ける国民の関心事となった。


 

アブドラ国王の誕生

 アブドラ国王は2014年子の中で最も若いムクリン王子を王位継承者の第2位(副皇太子)に指名したことで、孫世代への継承は無くなった。第1位はサルマン皇太子だが、病気がちで高齢のアブドラ国王と12歳しか違わない。孫への王位継承がなくなったため、サウジアラビア王家の若返りはない。


 サルマン皇太子は2014年2月に日本を訪問し阿部首相と会談して両国との友好を確認し合うなど、外交に余念がない。しかし日本とサウジアラビアが多くの経済分野で包括的関係を構築するという合意が、OPECにおける影響力、ひいては世界に置ける影響力の低下に苦しむサウジアラビアにとって、また日本にとってもたらす経済効果に疑問の声もあがっている。


 

思わぬライバルの出現

 サウジアラビアの限界は埋蔵量の統計(Statistical Review of World Energy)をみると歴然とする。2003年から10年の間に埋蔵量1位がベネズエラと交替したのだ。つまりサウジアラビアが原油埋蔵量世界1位というのは過去の話なのだ。またベネズエラには新たな天然ガス田も発見され開発に弾みがついている。また世界シェアにおいてサウジアラビアの15.8%に対してベネズエラは19.7%だ。埋蔵量も輸出量も第一位をベネズエラに奪われたことと対応するかのようにOPECでの指導力も下降している。


 1979年のイラン革命による政情不安定と米国の石油需要拡大が相乗して第二次オイルショックを引き起こしたが、OPECによる価格調整は失敗し、高値が1980年まで続いた。このことで石油に変わる再生可能エネルギーへの関心が高まり、OPEC非加盟国の原油増産で1982年頃から価格は下げに転じる。

 

 

OPEC時代の終焉

 1986年、サウジアラビアは原油の公示価格制を放棄したことで、OPECによる原油価格の決定機構は終焉を迎えた。それでも加盟国が協調して生産調整を行い、これによって原油価格を引き上げることに一時的には成功した。OPECが需供バランスによる価格決定を認めたかのようであった。しかしシェールオイル増産と北米原油増産による急激な原油価格の落ち込みが続く中、減産を見送り消耗戦を挑んだサウジアラビアの意図は何か。


 シェールオイルの増産が期間限定であることを見越し、一定期間の価格崩壊で赤字を外貨貯蓄でしのげば、最大のライバルベネズエラとロシアを葬ることができる。その時にはシェールオイルも終焉を迎えているので米国を「より」を戻し世界に君臨する。

 

 シナリオの行方は時期国王次第だが、しばらく経験したことがなかった貿易赤字は国民の反感をまねく。まさに諸刃の刃だが、病床ではどうでも良いことに思えたのだろう。失うものがなくなった国王の賭けにつき合わされる国民の思い描く未来が実現しないとわかった時に何が起こるか予想もつかない。



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サウジアラビアの、というよりはイスラム世界の宗教上の首都ともいうべき、メッカ。巡礼に訪れる人が後を絶たないが、富裕層は後ろにある高級ホテルに宿泊する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 確認原油埋葬量で世界1位はサウジアラビアではない。新興原油国を潰しにかかるサウジアラビアの図式が理解できる。