Photo: FARS News Agency
EU代表のEUのモゲリーニ上級代表とイランのザリフ外相によりイランの核開発を阻止するための包括的共同行動計画が、2015年7月14日に長い交渉の末に合意された。イランの制裁措置終了と引き換えにウラン濃縮、重水炉をはじめとするイランの核開発規模が縮小されることとなった
実際に満面の笑みを浮かべるEUのモゲリーニ上級代表とイランのザリフ外相の双方にとって満足いく合意内容だったのであろうか。ここで合意内容について検討し、交渉合意の意味を考えてみたい。
EUのモゲリーニ上級代表とイランのザリフ外相による合意の骨子は、「イランが核兵器開発を遅らせる措置をとり、一連の措置が実行されたことをIAEAが確認した上で、国連安全保障理事会決議と複数の国の政府が定めた対イラン制裁措置が包括的に解除される」というものである。
イラン核兵器化を遅らせることと経済制裁が引き換えとなっている。このことはイラン(ロハニ大統領政権)にとっては経済制裁の解除ということを達成した点で希望通りの結果である。一方でその条件となる「自主的な核開発化を遅らせる措置」の徹底が条件になる。
包括的共同行動計画の付帯文書に具体的な措置が記述されている。
1. イランのウラン濃縮施設
2002年の8月に存在があきらかになったNatanzと2009年に存在が確認されたFordowがある。前者は規模が大きいが平地で攻撃されやすいが、後者は山の中腹の地下施設でバンカーバスターでも攻撃は困難とされている。旧型の遠心分離機は大幅に削減しそれらの運転をNatanzに限る。
Fordowはウラン濃縮を停止、汎用研究施設となる。今後8年間は新型遠心分離機の利用を制限し濃縮ウランの蓄積が厳しく制限される。ただし15年をめどに平和利用(原子力)を目的とする濃縮、核燃料生産能力の向上を目指す。
2. Arak重水炉
大幅な設計変更を行い、プルトニウム生産能力を制限する。また重水生産は必要最小限に制限する。今後15年にわたり再処理関連施設の開発、運用などの活動を制限する。
3. イラン原子力プログラム
イランとIAEAは合意し、共同で実施する。核関連自発措置の実施を監視するためIAEAは広範な国内活動を20-25年にわたり行う。
以上を簡単に図式化した以下のイメージではっきり示されるように15年間の厳しい制限と25年間のIAEA査察で、この枠内でイランは核開発を断念せざるを得ない。その意味では(核開発の想定される過程では)、イランの核開発は放棄せざるを得ない。
Photo: The Wall Street Journal
以下に示すように合意の中心はNatanz、Fordowのウラン濃縮施設とArak重水素炉が中心である。ウラン濃縮施設はウラン型原爆を製造するために必要となる90%以上のウラン濃縮が制限され、もうひとつの原爆製造へのルートであるプルトニウム生産の能力を持つ)Arak重水素炉が運転条件を制限される。
これらの意味するところは原爆製造へのふたつのルート、ウラン濃縮とプルトニウム製造、のいずれもが制限されるということで、とりあえず核兵器製造の可能性は閉ざされたことになる。
Photo: Iran Fact File
しかし現施設を捨て地下施設を新たにつくる、もしくは北朝鮮やパキスタンから完成品を購入するなどの抜け道を考慮しての合意かもしれない。核の地下ネットワーク(注)が存在することは事実だし、完成品の購入の方が手っ取り早いと判断すれば、核交渉合意は意味がない。
したがってIAEAの定点査察と並行して偵察衛星の情報を継続して解析する必要性があるだろう。
(注)北朝鮮の核開発においてパキスタンのカーン博士を中心とする核兵器開発の地下ネットワークの存在が明らかとなった。現在の核拡散防止は大国間の合意のみでは成立しない。各新興国の査察と廃棄に向けて各国が協力して多国間会議で圧力をかける必要があるが、対イラン交渉以上に北朝鮮との交渉は難航している。問題は新型遠心分離機の能力向上によって、製造までの期間も短縮され交渉の遅れ(数年間)で製造が進められてしまう点である。
新型遠心分離機は2013年12月にIAEAがNatanzに180基の新型遠心分離機IR-2mを設置したことを発表した。