ルフトハンザ航空乗務員がストライキで守りたいもの

10.11.2015

Photo: bloomberg


フランクフルト空港はルフトハンザ航空の拠点である。この巨大な空港からかつては成田空港向けに「フランクフルトアムマイン」という名の同エアラインが導入したA3801号機が飛び立っていった。ドイツ各都市を結ぶハブ空港なので世界各国からの旅行客で賑わっている。


しかしオクトーバーフェストも終わって一段と冷え込みがきびしく冬支度を考え始める頃、毎年決まってこの空港には混乱に包まれる。それは毎年行われるルフトハンザ航空の乗員ストライキで主要な便がキャンセルされるからである。もちろん他のエアラインにとっては振替乗客がなだれ込む稼ぎどきではあるが、空港の混乱は極度に達し、振替便をみつけられない途方にくれた旅行者がシリア難民のように、空港にたむろすることになる。


今年もまたこの季節がやってきた。安全基準に関しては最もきびしく、世界で唯一機体の整備を委託しないことで知られるルフトハンザ航空だが、裏を返せば委託しないのは組合が阻止した結果ととれば、いかに乗員組合が強いか想像できるだろう。そのためか世界で最も安全なエアライン第1位に輝いている。


会社のロゴは黄色にツルが描かれたもので空港中、この黄色が標識にあふれこの色をみるだけで遠くから識別できる。「ルフトハンザ・イエロー」は細かい工業基準で指定されたものである。お堅いイメージはこのことでも察しがつくが、乗員は「規則」や「基準」にものすごく気を使う。そんな「エアラインの鏡」のような会社が何故、毎年同じ時期にストライキを行い1日あたり1,000EUという膨大な損益を会社に与えているのだろうか。


同社のストライキによる経常損失は今年に入って13,00EUにのぼる。下の写真はストライキに入った乗務員たち。統制のとれた軍隊のようにストライキに突入したら、会社が説得しようと鉄壁の守りでテコでも動かない。


Photo: BELLE news

 

119日のストライキでの欠航便は1,000便だが、重要路線での欠航は旅行者の旅行日程を大きく変更させるほど影響力が大きい。しかし労働組合が会社の損益を引き換えてまでストライキをする理由は、アメリカや日本のように会社に有利な雇用条件(非正規雇用)や安全性を犠牲にする合理化に反対するためだとしたら、黙って服従するより正常な近代社会の労働者なのではないか。

 

乗務員が気にするのは勤務環境(例えば無理なシフトや賃金カット)と上に述べたメンテナンス合理化である。欧州ではルフトハンザ航空以外にもストライキは多いので、不幸にして自分のフライトがキャンセルされても、またか、といって肩をすぼめ冷静に振り替えの手続きに向かうだろう。欧州の旅行者はストライキを他人事とは思っていない。ストライキで良い環境で労働者が働ければその方が社会にメリットがあるということを知っているからである。

 

 

企業の利益を増やすために自己を犠牲にするより正当な要求を企業にする権利が認められているのだから利用しない手はない。日本国内ではストライキの言葉が消えてから久しいが非正規雇用がそのために増え続けているとしたら、取り返しのつかないことを労働者自身がやってきたということだ。非正規労働者にスト権がないからもうストライキをやれなくなくなって久しい。労働環境は会社から勝ち取るものだということを忘れてしまったのだ。