増大する地球規模の食糧危機リスク

14.11.2015

Photo: International Business Times


ドイツに流れた難民(シリア難民だけではない)の総数が75万人となり、2015年中に100万人となる予想は実現しそうな状況である。難民には生活費や食糧が渡されるが、100万人規模となれば欧州の財政や食糧チェーンにも影響がでることは必至だ。


欧州の人々が危機感を感じている中で、最近ロイズグループのシンクタンク(Trevor Maynard-Exposure Management)がまとめた「食糧危機ショック」についての報告書(2015はショッキングな内容だ。欧州に限らず全世界の食糧供給体制が危機に瀕しているという。


ひとつの原因は人口の増大があるが、そのほかに発展途上国の食糧消費に変化がみられることがあるという。FAOの予想では2050年までに食糧生産の需要が倍増するが、このタイムスケールに食糧供給が対応できないとしている。


その準備が現状ではできていないのだ。結論をいえばいま緊急に食糧難を乗り切る方法を編み出してリスクを低減しなければならない。食糧サプライチェーンが機能を停止すれば、食糧価格の高騰を招くことになり、これがきっかけで経済全体に(経済恐慌を引き起こすほど)深刻な影響を与える。


 

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食糧のサプライチェーンを脅かすリスクとして急激な気候の変化、水資源の枯渇、グローバリゼーションの結果としての格差と人の移動、政治的混乱などがあげられるが、これらのリスクファクターは全て現実に起きている事柄である。例えば内乱と格差、圧政に起因した難民問題もそのひとつである。

 

ロイズグループでは将来のリスクを評価するのに食糧危機のいくつかのシナリオを考察している。食糧の安全と供給の持続性に関する専門家がシナリオの作成にあたった。シナリオの結果は深刻で緊急を要するため、世界経済、政治、社会へのインパクトが大きい。もちろん予測の中には予測するデータが不足しているための不確定要素があり、気候など予測が困難なファクターの影響もある。しかし食糧危機の不確定要素を取り除き精度をあげて、危機を乗り切ることをいまから考えなくてはならないことは確かだ、としている。なおここでは問題にしていないが2050年でのエネルギー需要も倍増すると予想されるので、人類は食糧危機とエネルギー危機を同時に迎えることになる。

 

 

ここではシナリオの一部を紹介してその社会・経済への影響を考察してみる。まず食糧危機(飢饉)が政治的不安やテロリズムを増大させる。欧州に押し寄せる難民の多くは家族ぐるみであり、子供たちに必要な食糧を確保するには難民申請で受けられる生活保護(食糧供給)を目指したものである。また食糧危機により経済は衰退し、政治統率は弱体化、生活環境の悪化、海洋汚染、航空運輸機能低下、農業衰退が生じる。食糧品の品質も低下しリコールも頻繁化する。これらの状況に保険業者は答えなくてはならないから、保険業そのものが食糧危機の影響を受ける。

 

保険業は本来社会の持続性とレジレンスの向上のためにあるものだから、食糧危機の深刻さを理解してリスク伝搬のメカニズムを研究することによってリスク管理を構築していく必要がある。

 

干ばつによってインドの食糧生産は11%減少、特に米の生産は18%落ち込む。バングラデシュの米供給はこのため6%低下、パキスタンの穀物供給は10%低下する。オーストラリアの穀物生産量は50%減少。ベトナム、タイ、フイリピンの米生産はそれぞれ20%10%6%減少。アルゼンチンの大豆生産が15%減少。

 

 

トルコ、カザフスタン、ウクライナの穀物生産は10%減少、ロシアは10%減産で世界全体の農業生産は7%から10%減少する。一方で人口は2倍となるので、一人当たりの食糧は平均で現在の半分になる。しかし供給格差によって生活を保てない人口が過半数を越えるため、経済恐慌、政治不安、社会秩序が大打撃を受ける。不確定要素はあるが現在すでに現実化している部分もあるので、難民の欧州への流入が予兆だといえるのかもしれない。